「白い・・。−5−」
葉乃様


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3月に入り、他のケーキ店がそうであるように「patiserrie mibu」も、ひな祭り、春の新作ケーキとても忙しくなった。
そうして、あっという間に2週間が過ぎたのである。


 3月14日・・・。

「山南さん、今日会えないなんて残念だったね。」
「うん、でもしゃあないわ。昨日のうちに埋め合わせしてもらったしv」
里は特に残念そうでもない顔で答える。理由は薬指に光るそれだろう。
ホワイトデーだというのに、どうしても抜けられない用事で会えないから、と昨日のうちに山南に呼び出され、もらったらしい。

「そっかvそうだよね〜この幸せものv」
「幸せもんやもんvセイちゃんこそ、今日うちと遊んでてええの?」
「いいんだよ〜♪だって何にもないもん〜♪」

そう、ホワイトデーだというのに、セイはこうして里の家でお茶を飲んでいるのである。
おどけて言うセイの様子に、里は目を細める。

「お店でお返し結構貰ったしねv」
「このクッキーとか、そう?」
「うん、これは永倉さんから。でね、こっちのマシュマロは斎藤さんからで・・。」
セイは1つ1つ貰ったものを説明していく。
「もてもてやんv」
「全部義理のお返しだってば〜。」

くすぐったそうに笑うセイに里はからかうように聞く。
「うふふ、そうやね。土方はんからは?」
「もう!ないよ、別に!」
「そうなん?」
「そうだよ、だってあれはバレンタインデーのチョコじゃないもんっ!」
「くすくす、そうやね、そやったね。」
「里さんは?お菓子貰った?」
「うん、キャンディーがおまけでついてたv」
里は照れくさそうに、そのキャンディーの包みを見せる。

「そっかvでもさ、クッキーだったり、マシュマロだったり、キャンディーだったり、ホワイトデーってなんでバレンタインみたいに お菓子が決まってないんだろうね?」
「セイちゃん知らんの?」
「え・・?」

「ホワイトデーはね、別にお菓子じゃなくてもええんよ? 「something white」って白いものをあげるんやって。」

「白い・・もの?」
言われた言葉に、セイの脳裏に何かがよぎる。
白・・・something white・・?


・・・「ホワイトティ−って知ってるか?」
「こないだ言ってたやつだ。」
「やるよ。」・・・


「里さん!!ごめんっ・・ちょっと私急用!!」
「えっ・セイちゃんっ?!」
「ごめんっ・・ごめんねっ・・。じゃあ行ってくる!」
「ちょっ・・セイちゃん・・行くってどこに?」
「支配人のとこっ!」
「土方はんの?何で急に?」
「今日、貰ったものの事で、確かめなきゃいけないことがあるのっ!」
「貰ったって何・・?!」
「ホワイトティー!」
「あっ・・セイちゃんっ・・。」

バッグを持ち、コートを着るのもそこそこに、玄関を飛び出していったセイの姿はあっというまに見えなくなった。
一人残される里の頭に響くのはセイの一言。

「ホワイトティ−って・・・あっ・・ふふっ・・そっかそうやね、それは今すぐ行かんとあかんね・・ふふっ・・。」
反射的と言ってもいいくらいの勢いで駆け出していったセイを思い出し、里は笑う。
彼女がその気持ちに気づくのはもうすぐ。いや、もう気づいているかもしれない。

「頑張ってね、セイちゃん。」




あの人はまだ店にいるだろうか?それとも、もう家に帰ってしまっただろうか・・?
どっちにいてもいい。せめてどっちかにいて欲しい。

ようやく走りついた店を見上げれば、見える明かり。
セイは階段を駆け上がる。

『とんとんとんとんとん・・。』

『がちゃっ・・。』

「支配人っ・・。」
「なんだ、神谷・・。また水やりか?」
セイの耳に届くのはいつものあの声。
低くて、よく通る、自信たっぷりで、意地悪で、優しくて・・。

「そうっじゃなくて・・。はぁ・・はぁ・・。」
「そうじゃなくて・・?何息切らしてんだ?走ってきたのか?」
「はぁ・・えと・・その・・今日くれたのって。」
「あぁ、ホワイトティーか。」
「その・・ホワイトティーを今日、くれたのって・・・。」
「どう思う?」
「えっ・・あの・・。」

走ってきたせいであがった息は、もうだいぶ落ち着いた。
しかし、セイの体温はどんどん上がっていく気がする。

いくら口を開いても、意味のある言葉が1つも出てこないセイを見て、歳三は続ける。
「よく気づいたな。」
「えっ?!」
何に気づいたと・・?急には意味がわからない。
「そういうことだよ。」
「・・・っ・・。」

自分の顔がどんどん赤くなっていくのがわかる。
それをにやにやと見ている歳三に言い返せそうな言葉は思いつかない。

「お前は?」
「えっ・・。」
「お前が思ったとおりの意味でしか受け取らないって言ったが、お前がどう思ってんのかきちんと聞くのを忘れてた。」
「それはっ・・・。」
「あのクローバーは?」
「・・・・・花言葉の・・とおりだったみたいです・・。」
やっとの思いで紡ぎだした言葉は少し自信がなさそうである。

「みたい?」
「渡した時は、気づかなかったけど・・そのっ・・いつのまにか・・。」
「惚れてたわけだ。」
「!・・なんでそんなにはっきり言っちゃうんですかっ!」
しゃあしゃあと言う歳三にセイは顔を真っ赤にして抗議する。

「なんでだろうな。」
そう言うとセイの近くまで歩み寄る。

『ふあっ・・・』

「しはいにっ・・。」
この感覚・・前にも・・そう、クリスマスの時だ・・。
「俺も一緒だからだろうな・・・。」
「支配人も・・?」
見上げるセイの顔に、思わず視線をはずす。

考えてみれば、この距離は歳三にとっても当然恥ずかしい。
「そういうことだ。」
「・・・っ・・・。」
「よく泣くなぁ・・お前は・・。」
「だって・・。」
「笑ってろって・・その方が絶対いいから。」
「・・。」
「な?」
「はい・・。」

花が紡いだ言の葉が図らずも伝えた気持ちが、この一月でお互いにここまで大きなものになるとは思ってはいなかった。
一月がとても長く、それでいてあっという間に感じられる。花と色に助けられた2人が、これから育てる気持ちはまだ芽になったばかりである・・。




「斎藤さん〜。」
「もういい加減にしてくれ沖田さん・・。」
「いいじゃないですか、飲みましょうよ・・。」
「なんで、こんな日にあんたと飲まなきゃならないんだっ・・。」
「斎藤さん、私にもなんかお菓子ください〜。」
「気色悪いこと言わんで貰おうか・・・?」
「・・・しくしく・・。」
「泣き上戸だったのか・・あんた・・。」
「そうですよ、飲まなきゃやってられませんっ。」

(ちゃんと会えたかな・・2人とも。まったくあそこまで雰囲気作られちゃ太刀打ちできるわけないじゃないですか・・。斎藤さんも引き離しましたからね、これで何も出来なかったら、闇夜に刺しますよ・・土方さん・・。そっちこそ、神谷さん泣かせたら承知しませんから・・。)


仕事帰り、セイを誘おうとした斎藤をむりやり飲みに誘ったのは、総司の罪滅ぼし。
彼女を怖がらせてしまった罪が少しでも軽くなれば・・と人知れず働いた総司にも春がやってくるのはもう少し先の話である。

(ぞくっ・・。)

「支配人・・?」
「いや・・なんか急に寒気が・・。」
「風邪ですか・・?」
「さぁ・・・?」








「patiserrie mibu」シリーズ第3弾、最終章でした。
第1章から読み進めてゆきますと、だんだんと歳セイになってゆく様子が微笑ましくもあり、こそばゆさもあり、どきどきもありました。
あぁ、このシリーズ、ずっと続かないかしらと思っています。
現代版を読むのは好きなのですけれども、自分が書くとなるとなかなか手が動かないのです。
シーンは浮かんでくるのですが、それをお料理に出来ない。
また、葉乃さんが書かれるほんわか甘甘なお味も自分は出せないので、本当におなかいっぱいになりました。
葉乃さん、この度は本当にどうも有り難うございましたv
次回も楽しみにしておりますです(*^^)