「お正月」


葉乃様



ここは新撰組一番隊組長沖田総司の休息所。

のどかな元旦の昼下がりである。

いつもはこの家の主、沖田総司と妻セイの2人が暮らしているだけであるが、

今日はそこに副長の土方と三番隊組長の斎藤が招かれている。

本来なら、総司とセイが兄分と慕う2人に年始のあいさつに出向くのが筋であるが、

せっかくの正月、出来るならおせち料理を一緒に食べてもらいたいという

セイの希望で2人が足を運んでくれたのである。

近藤も当然のことながら声をかけたが、朝から先約があるといい、

残念だが次の機会にということになった。





年始のあいさつも済ませ、4人でお屠蘇を飲み、話をする。

セイはしばらくすると、昼餉の用意にと雑煮を作りに席を立つ。



「神谷もだいぶ変わったな。今のあいつをみて、

昔、新撰組にいたなんて言っても誰も信じねぇだろうな。」



セイの後ろ姿を見て、土方はつぶやく。



「ほんとにそうですよねぇ。可愛くなっちゃってv」



まさに溶けそうな笑顔のひらめ・・ではなく、総司。

そんな総司を見て意地悪げな笑みを浮かべながら土方が続ける。



「あぁ、用心しねぇとあぶねぇぞ(にやり)」



「なっ!土方さんにはあげませんからねっ!」



「ばっかやろっ・・俺じゃねぇよ。童に興味はねぇ!」



「良かった・・。土方さんだと冗談にならないですよ、あはは・・。」



「おめぇがそこまで言うんなら・・(にや)」



「だっ・・駄目ですっ!そりゃうちのセイは可愛いし、よく気がつくし、

働き者だし、一緒にいて落ち着くし、それにやっぱり可愛いし、

料理は美味しいし、誰から見ても理想のお嫁さんですけど、私のです!あげませんっ!!」



聞いてるだけで吐きそうなほど甘い事を言っている総司を

土方はにやにやと笑いながらからかっている。

しかし、その隣にいるもう一人の男は、馬鹿馬鹿しくてやってられないといった風情である。



「沖田さん・・話の途中で申し訳ないが、さっき買っていたそれ、神谷への土産じゃないのか?」



馬鹿な話を中断させられるなら、忘れ物くらい指摘してやると言わんばかり、

総司の傍らにあった小さな包みを指差す。

その言葉に総司は忘れかけていたことを思い出し、立ち上がる。



「そうだ!斎藤さんありがとうございます♪ セイに頼まなきゃいけないことがあったんですよ〜♪」



総司は小包を持つと嬉々としてセイのいる台所に向かったのである・・。





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「セイ〜♪お雑煮の用意ってもう終わりました?」



「はい、総司様。もう準備できてますよv」



「そうですか〜・・・。」



その声に総司はしょんぼりとした声をあげる。



「どうしたんですか?何か不都合でも・・?」



総司の様子にセイは首をかしげる。



「いえ、なんでもないです・・。」



「総司様・・?言ってください、気になります〜。」



「セイ・・今からこんなお願いをするのは私としても心苦しいんですが・・。」



「はい?」



「用意しているお餅じゃなくて違うのをいれて欲しいんです・・。」



いかにも申し訳ないといった感じの夫を見て、セイはますます不思議に思う。



「はぁ・・?構いませんけど・・?」



「ぇっ!?ほんとにっ?いいんですか(ぱぁぁぁっ)」



総司は急に光がさしたように顔をほころばせる。

一体なんなのか・・・?





「ええ、いいですよ?ちなみに今年は土方副長も斎藤先生もいらっしゃるから、

江戸風にしようと角もちを用意してあったんですが・・。

総司様は丸もちが良かったんですか・・?どんなお餅なんです・・?」



「うっ・・まぁ、丸といえば丸なんですけどねvこれを入れて欲しいんですv」



総司は今まで後ろ手に隠していた包みをセイの前に差し出す。

そこには・・・・。



セイは包みをうけとり中を見て絶句する。



「これって?!大福じゃないですかっ!!」



「えぇv大福ですvv」



「こっ・・これをお雑煮にっ?そのまま食べるんじゃだめなんですかっ?」



セイの顔は蒼白である。いくらこの人が甘味好きと言っても予想できなかった。

第一、これを入れるとなると、何で仕立てればいいのか・・江戸生まれのセイには見当もつかない。



「はいv」



かたや総司はにこにことするだけである。



「・・・。」



二の句を告げないセイに総司は続ける。



「あっ・・セイ呆れてますね?誤解ですよ、私が甘味好きだからって考え出したわけじゃないんです!

実際にお正月のお雑煮に大福を入れる地域があるんだそうですv

だから絶対美味しいですよv」



「それ・・どこなんですか・・?」



「さぁ・・?確か備後の方だったり讃岐の方だったり、結構色んな所でそうみたいですよv」



「それ誰が言ってたんです・・?」



「賄い方の人が言ってましたvお雑煮には地域の特性があるんだってv」



「だったら、総司様は江戸の生まれなんですから、江戸風のお雑煮でいいじゃないですかっ。

それに私は何仕立てで作ったら良いかわかりませんよ〜(涙)」



「いいんです!食べてみたいんです!お雑煮にもいろんな特性が出てるなんてぜひ試してみないとv」



(嘘だ・・ただ大福を食べたいだけだ・・。)



「ねぇ〜セイ〜お願いですから〜。」



「そういう地域があるのはわかりましたっ!それはそれでお国柄、きっと美味しいのができるかもしれませんっ。

でもっ私は作り方がわからないんですってば・・。」



「大丈夫、セイならきっと大丈夫です!」



「どこから来る自信なんですか・・・。」



だだっこのように食い下がる総司、こうなったらもう言うことを聞くまでまとわりつくのがいつものことである。



「もうっ、わかりました!その代わり、セイはその作り方を知らずにつくることをお忘れなく!

上手くいかなかったとしても知りませんからねっ。」



「やった〜♪」



かくして、総司は元旦早々、可愛い妻に呆れられながらも願いを聞き入れられたのであった。



そして・・・。





「おぃっ・・総司・・?おまえ・・なんだそれ・・?」



「お雑煮ですよv土方さん♪」



「雑煮って・・俺たちが持ってるのとだいぶ違うんじゃねぇか?その餅・・やけにでかいし、丸いし・・。」



土方は自分の持つ椀に入った雑煮と総司の持つ椀に入った雑煮を交互に見る。

自分の持っているのは角もちにすまし仕立て、総司の椀にはやけに大きい感じがする丸餅に白味噌仕立ての雑煮が入っている。



「そりゃそうですよv大福ですもん。」



「「はぁ?!」」



土方と、黙ってもくもくと雑煮を食べていた斎藤が聞き返す。

驚きのあまり、椀を取り落としそうになる。





「セイが特別に作ってくれたんです〜♪」



「とっ・・くべつって言ったって、神谷?!」



セイが大きなため息をつく。



「特別に作ったって言う感じより、作れと迫られてやむなくです・・。

どんな作り方かもわからないのに、備後や讃岐のお雑煮はこうだ!の一点張りで・・。

本来なら大福は大福でもきっとお雑煮用のものがあるんじゃないかと思うんですが・・。」







「でもそこはさすがセイですよ!ちゃんと美味しく作ってくれましたv」



「そう・・ですか・・それは良かったです・・。」



誉められても、喜ぶ気力が出てこない・・。



「神谷・・・お前・・。」



「副長・・。」



「苦労が絶えねぇな・・。礼を言う・・。」



土方だけでなく、斎藤も口を開く。



「神谷・・辛かったらいつでも言え・・。」



「土方副長、斎藤先生、過分なお言葉いたみいります・・。」



「あっ・・ひどいなぁ・・美味しいのにv斎藤さんも、土方さんもどうですか?食べてみれば良いのにv」





「「いらん!俺たちは辛党だ!」」





(なぜ、こんなやつの所に嫁に行かせてしまったんだろう・・。この甘味馬鹿ひらめ・・・。許せんっ。)



思わず殺気を出しそうになった斎藤にセイが声をかける。



「兄上・・お口に合いました?」



「あぁ、とっても美味かった。江戸の味だな。馳走になった。」



「良かったvたくさん召し上がってくださいねv」



「あぁ。」



(まぁ、いいか。正月から神谷の手料理が食べられただけでも、良しとしよう・・。)





「土方副長は・・いかがでした・・?」



「あぁ、悪かねぇ。懐かしい味だ。」



「ありがとうございますvお代わりは?」



「もらおう。」



用意していた分がとりあえず客人2人の口に合ったことでセイは安堵する。



2杯目の椀を受け取りながら、和やかに談笑する3人。

それを見て、総司は言う。



「セイ・・私・・そっちも食べたいです・・。」



「「「・・・・。」」」





今年初のセイの手料理、総司の胃は今年も元気のようである。







葉乃さん宅で元旦から松の内まで飾られていたお持ち帰り用のお品を例のごとく大きな風呂敷持参で 頂いてきたとってもあらゆる意味で「甘い」お品です(*^^)

総司とセイちゃんが夫婦という設定も甘いですが、何よりも総司の頬張るそのお雑煮大福が「甘い」(笑)

讃岐っ子情報としましては、確かにお雑煮の中に餡入り餅を入れるところもありますです。

でも日本一小さい県讃岐でも東と西とでちょこちょこ文化が異なっておりまして、 高松あたりでは餡入り餅が風習としてあります。

私も数回食べたことがあるのですが、甘くて、甘すぎて・・・・・・(^^ゞ

讃岐の味噌は白味噌なものだから尚更甘く感じるのでしょうか。

私は少し苦手ですが、好きな方は好きみたいです。

白味噌の普通のお雑煮は大好きなのですけれども、なかなか総司のようにはいきません。

総司の胃は年が明けて益々元気な様子。

くれぐれも虫歯には気をつけてくださいな(笑)

葉乃さん、この度はとってもほんわかで楽しいss、どうも有り難うございましたv