「花が紡ぐ言の葉−3−」
葉乃様
− 3 −
『こんこん』
「はい?」
「神谷いるか?」
「はい、いますが・・支配人・・?」
「あぁ、あけるぞ。」
「はい、どうぞ・・。」
『がちゃっ・・。』
「支配人、まだ居たんですか?」
「あぁ。今帰ろうと思ってたんだが、近藤さんに頼まれてお前に伝言だ。」
「私に・・?」
「今日、制服決めなおす予定だっただろう?」
「はい。」
「それが、仕立ててくれる店の都合で延期になったんだ。それで、今日は帰っていいとよ。」
「そうなんですか〜。なんだ〜。」
「総司先に帰して、失敗したな。」
「そっ・・それはべつにっ・・。」
「冗談だよ。」
にやりと笑う歳三にセイは膨れて顔を背ける。
「もう!」
その仕草が可愛らしい。弛みそうになる顔を押さえ、歳三は言った。
「送るぞ?どうする?」
「じゃあ、お言葉に甘えて・・。」
「素直だな・・?」
「いつも素直です!」
「嘘つけ。」
「あっ・・そうだ。支配人、これ・・。」
セイは思い出したように自分の鞄から包みを出す。
渡す機会がなく、渡せるのは明日にでもなるかと思っていた包み。
クローバーの飾りがちょこんとついている。
「ん・・?」
「お礼です。バレンタインと重なっちゃったけど・・。」
「お礼?なんの?」
「クリスマスの時のこととか、紅茶入れてくださった時のこととか、鉢植えに水をあげてくださったこととか、送ってくださったこととか・・
最近すごくお世話になってるから・・。」
「そうか・・べつにそんなことたいしたことじゃねぇから気にすんな。」
「でも、気持ちですから、良かったら受け取ってください。」
「それとも・・・俺に惚れたか?」
にやりと笑いセイの顔を覗き込む。
「なっ・・違います!そんなんじゃ・・。」
「そう力いっぱい否定されるのも、結構寂しいもんだな。」
からかいながらも、少ししょげてみせる歳三。さすが、たらしである。
セイもその術にまんまとはまる。慌てて、弁解する。
「あっ・・そうじゃなくて・・その・・。」
「わかってるよ。ありがとな。」
ぽんっと歳三はセイの頭を叩き、俯くセイに笑いかける。セイの手から包みを受け取る。
「支配人っ・・。」
「ほら、帰るぞ?」
「はい!」
そうして、帰り支度を済ませたセイは歳三に送られ、店をあとにしたのだった。
『ぴんぽん』
「・・・。」
(来やがった・・。)
「土方さん、助けにきましたよ〜。」
『がちゃっ・・。』
「総司・・お前自分で数を集めようって気にはならねぇのか?毎年毎年・・。」
「嫌だなぁ、数じゃありませんよ。私は土方さんのためを思ってですね・・。」
「てめぇのためだろうが・・。こんだけあったって、1年かければなくなるはずだ。おめぇに頼まなくてもなんとかなるだろうよ・・。」
「何言ってんですか?1年もかけたら、最後のほうは美味しくなくなってますよ。夏を越すなんて考えられません!」
「いいじゃねぇか、ほっとけ!」
「ほっとけません!土方さんが虫歯になったらどうするんですか?!」
「おめぇだって、虫歯になるだろうが!」
「私は大丈夫です、毎日しっかり歯磨きしてますからv」
「俺だって磨いてるだろ・・。同じじゃねぇか。」
「違いますよ、私は歯科衛生師さんにしっかり教わってですね・・。」
「お前は歯科医師協会のまわしもんか・・。」
何を言っても無駄だ。と歳三は嘆息する。
仕方なく、家に入れ、居間に通す。
「やっぱり、毎度毎度すごいですね〜。今日は誰と誰に会ったんです?」
「誰にも会ってねぇ。」
「それで、この数?すごくないですか・・?」
「用事があるって言って断ったら、今年はみんな郵送で来た・・。」
げんなりとチョコの山をみつめる歳三。
好かれていることに悪い気はしないが、時々、女の持つパワーに呆れることがある。
「もてる男はつらいですね〜。」
「ほっとけ・・。」
「これ、全部持って行っても?」
「あぁ、それはかまわないが、一応カードとかは抜いてけ。あと、チョコの特徴を包み紙にでも書いてからいけ。」
「これ全部に?まめだなぁ・・土方さんはv」
「うるせぇっ!いいからもっていきたかったら、それが出来た分だけ持って帰れ!人から貰ったもん、見もせずに右から左に渡せるか!!」
この男、その容姿ももてる一因ではあるが、それ以外にももてるのにはわけがある。
遊ぶ女は数多く、めったに本気にはならないが、礼儀は尽くす。
貰えば、それなりの礼をし、きちんと貰ったものも確認する。
そういう気遣いがあることを知っている土方の女友達は、恋愛感情だけではない何かでこの男にこうしてチョコを渡しているのである。
「じゃ、これで全部ですね♪いただいていきます〜♪」
「おっ・・お前・・何も全部持っていかなくたっていいだろう?!」
「だって不公平じゃないですかv土方さんに食べてもらえる人と、そうでない人がいるんじゃ、平等じゃないでしょ?それとも、この中に本気な女の人のチョコはあるんですか?」
「いや・・ないが・・。」
「じゃあ、いただいていきます♪」
「あっ、おいっ、総司!!」
総司はまさに喜色満面といった体で歳三の部屋をあとにしていった。
「・・・あの野郎・・・。」
いつもながら、無邪気な弟分に溜息をつきながら、歳三は冷蔵庫を開ける。
他のと分けておいて、良かった。
歳三の視線の先には、小さな包みがあった。
その包みに飾りがついているのに、歳三は今気づく。
「クローバー?花じゃなくて、クローバーって・・。」
ちょこんとついた飾りにふっと笑みをもらす歳三。
包みを開け、中のチョコを取り出す。
総司の目に触れないようにと、冷蔵庫に入れていた分、いささか冷たくなったそのチョコレートは、細長い形で・・たぶん手作りだろう。
オレンジの香りがする。
「あいつ、よく知ってたな、こんなのの作り方。」
チョコレートスティックを齧りながら、歳三は笑う。
オレンジピールの苦味で、チョコの甘さがちょうどいい。
毎年、ウィスキ−ボンボンだの、ブランデー入りのチョコだの、とかく洋酒が入った物が送られがちだった歳三にとって、その味はなんだかとても自分に馴染むような気がした。
もっとも、送った相手は「お礼」だと言っていたので、バレンタインデーの本来の目的をもつチョコとはどうやら違うらしいが・・。
(今ごろ、総司も食ってんのか?このチョコ・・いや、もしかしたら別のチョコかもな・・。)
「おはようございます、神谷さん♪
「おはようございますv 沖田先輩!」
「昨日どうでした?ちゃんと決まりました?」
「それが、結局無かったんですよ〜。お店の方が都合悪くなっちゃったみたいでv」
「なんだ〜じゃあ、誘えば良かった。あれから土方さんにチョコ貰いにいったんですよv」
「えっ?チョコくれたんですか?支配人。」
「ええ、貰ったの全部だった言ってましたv すごいですよね〜。」
「そう、ですか・・・。」
(お礼とは言っても、そうだよね・・。)
「でね、土方さん全部カードとかは置いてけ!ってもうその作業が大変で・・。」
やれやれといった感じで手をあげる総司。
セイが口を開く。
「どんな包みだったんですか?」
「どんなって、全部市販のでしょうね。結構有名なチョコのメーカーが多かったですよ。」
「手作りのとかは・・?」
「そう言えばなかったですね。だから土方さん、手作りが欲しかったのかなぁ・・。」
「そうですか♪」
「神谷さん?」
「さっ、沖田先輩。遅れちゃいますよ、早く早く♪」
(一体どうしたっていうんですか・・神谷さん・・。)
「ええ、はい。行きますよv ちょっと待って神谷さん〜。」
自分の作ったチョコはどうやら総司の手には渡っていないらしい。
お礼であったはずのチョコが土方の手元にあるかどうか、ということがこれほど気にかかるというのはどういうことなのか、セイはまだ気づいていない。
「おはようございます♪」
「おぅ、神谷おはよう!昨日ありがとうなv」
「どういたしまして、原田さんv」
「神谷おはよう〜。」
「おはようございます、藤堂さん♪」
皆口々にあいさつをし、朝の仕度をしている。
休憩室のテレビがニュースを告げている。
アナウンサーの女性が受け持っているらしいコーナーでどうやら花言葉の話題を取り上げているらしかった。
「薔薇は愛っていうのは有名な所ですよね〜。私を忘れないで、は忘れな草。ここで意外にもクローバーにも花言葉があるんですよ〜。」
その言葉に、セイはびくっと体を緊張させる。
里が「悪い言葉じゃない」といいながらも教えてくれなかったあの花言葉だ。
しかも今はここに歳三までいる。花言葉によっては、とんでもないことになる・・。
どうして渡す前にこういう放送をしてくれなかったのか・・
「クローバーの花言葉は「私のことを想って下さい」、昨日バレンタインにもぴったりですねv」
(うそっ?!)
セイは思わず口元を押さえる。
「花言葉は「私を想ってください」・・」
アナウンサーの能天気な声が耳の中に響く
呆然としたまま、テレビの中のはしゃぐアナウンサーの姿をみつめる。
そして・・。
(「想って下さい」?!って、おい、昨日確か・・。)
アナウンサーの言葉に瞠目しているもう一人の人間。
その言葉に反応してしまったのはこの男も同じである。
思わず視線を向けたその時だった。
「「!」」
向けたその視線が、同じく動揺している人間のそれとばっちり合う。
急に逸らすのも不自然で・・かと言ってあわせた目の、おさまる場所は無い。
どちらからともなくぎこちなく視線をはずし、顔を赤くして俯く。
(落ち着いて・・花言葉・・知らなかったんだもん。そうよ、お礼だって言って渡したんだから、支配人だってそんなこと、気にしない・・はず・・。)
(落ち着け、あいつは知らなかったのかも知れねぇ・・そうだ、だって総司が好きなはずだ!そうだ、だからきっとただの偶然だ・・。お礼だって言ってただろ・・。)
そんな2人の様子に気づくこともなく、他の皆が準備をするべく階下へと動き出した、がやがやと騒々しく階段を降りていく。
「神谷さ〜ん、早く準備しますよ〜。」
「神谷早く〜。」
総司と、藤堂の声に、我に帰るセイ。
うわずる声を抑えてそれに応える。
「はっ・・はいっ・・今行きます!!」
「じゃ・・行って来ます・・。」
何も言わずには出られ無い。やっとの思いで歳三に声をかけるセイ。
その声でようやく歳三は我に帰る。
「はっ・・あぁ、行ってこい・・。」
とてもぎこちなく響くその声を背にセイは仕事場へと出て行ったのである・・。
それを見送る歳三は、誰もいないことを確かめ、ふっと溜息をつく。
(まさか・・・な。あるわきゃねぇだろ・・。)
たまたま選んだ飾りの花言葉が紡いでしまったセイの気持ち。
偶然が招いた出来事、2人の先はまだ誰も知らない。
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