お前のそばにいよう。
お前が泣き止むまで、お前が満足するまで。
そう。お前が満足するまで――――。
「虚実」
春様
「…神谷。事あるごとに泣いてちゃ、そのうち総て枯れ果てるぜ。」
「お、大きな、お世話ですっ!」
「ほら。泣くならここで泣いてしまえ。」
「副長…?」
「そんな顔で出てったら俺がお前を泣かしたみてぇだろうが!」
素直に泣けばいい。俺の前でだけ。
それでお前が安心するのなら。
満足するのなら、俺はいつまでもここにいる。
「…神谷はどうした。」
「今日から姑のところです。」
「(ということは、お馬か…。)そうか。ならお前でいい。」
夜の風は涼しく、なぜだかお前の泣いた表情が頭に浮かぶ。
それもすぐに消え、思い出すのは、俺が殺した人間たち――――
「…くそ…!」
情けないにもほどがある。俺は鬼だ。
鬼には、人の心など、持たなくていいんだ――――。
なのに逢いたくなる。
なぜだろう、と、考える前に、心はお前を求めている。
――――時々、どうしても思わずにはいられなくなる。
お前を守りたい、と。お前の望むことなら何でもしてやりたい。
本気で、愛した女のために、そう思って、ないが悪いのだ、と。
許される?許されない?許してほしい?許してほしくない?
どれが自分の気持ちかも分からないまま。
俺はただ、お前に心奪われていく。
「副長。神谷清三郎、ただいま戻りました。」
「神谷。ここに来い。」
「は?は、はぁ…」
お前を抱きしめると、心が落ち着いていくのが分かる。
顔を見ると、真っ赤になりながらも微笑むお前が、心底愛しいと想う。
総ては俺の為だった。お前のため、お前のためと。
そういいながら、俺は俺の為にお前を抱いていたのだ。
俺は俺のために、お前を求めていたのだ。
責任転嫁、虚実だらけ。
「神谷。…セイ。」
「はい、なんでしょう?って、その名前で呼ぶのはやめてください!」
「俺はどうやら、お前がいないと生きていけないらしいぜ。」
――――今こそ、認めよう。
お前が泣き止むまでといいながら、俺がお前に触れていたかった。
お前が満足するまでといいながら、俺が満足するまで傍にいたいんだ。
必要だ。
満たされる想い、落ち着く気持ち。
負の感情すべてを吸い込んでいくようなお前の笑顔が、なによりも。
鬼の俺も、人間の俺も、愛してくれるお前が。
「…今頃お気づきになりましたか?」
「…そうだな。…三日間悩み続けた。…おかげで島原にいくのも忘れた。」
「…は?」
「今日は特別な仕事があるんだが?」
「え、遠慮いたします…」
「遠慮するな。」
――――すべて、愛してやろう。
それが俺の償いだ。
お前を欺き、利用した罪の。
こんなに易しい罰はないだろう。
―――― 一生、離すつもりはないがな。
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