「残暑」


琳様



過ぎ行く夏


二度とは戻らない夏


だから願う


この時が長く続きますようにと


来年も皆で こうしていられますようにと




****  ****  ****  ****




残暑厳しい日々が続く。
朝でも太陽はこれでもかというくらい照り付けている。
最後の力を振り絞るように。
その輝きは、激しく、流石の新撰組の猛者たちも、この暑さには敵わないようだ。皆、精魂尽きたようにぐったりとしている。

それは原田と藤堂も例外ではなく、
無駄だとわかりながらも、水を汲んだ桶に足を入れ少しでも涼もうとする。

「あちー。こんな中で、稽古なんてできるわけがないよな」
「ホント、ホント。道場は蒸し風呂状態だったよ・・・・・・」

樹の陰になっている縁側で、二人仲良く桶に足を突っ込んで、団扇で扇ぎながらぼやく。
二人とも午前の稽古をこっそりとサボっていた。
こんなに暑いのにやってられるかよ、と言いながら。

「こんなところを、土方さんに見つかったら、ただじゃすまないよな」
「うーん。確かにそうだね」

流石に鬼副長の異名を取る、土方の雷は嫌なのか、藤堂は少し不安そうな顔をする。しかし、それでもようやく手に入れた涼を手放す気にはならなかった。
そんな彼に気づいてか、
「まあ、土方さんも忙しい人だから、大丈夫だろう」
いつものように、気楽に原田が言った。何の信憑性もない台詞だが、彼らしいその言葉に藤堂は不安がっているのも馬鹿らしく思え、
「それも、そうだね」
と、にっこりと笑った。



しばらく何をするわけでもなく、二人でまったりしていると、
廊下の端から、どすどすと言う音が近づいてきた。

「うわ。やべぇ。もしかして土方さん??!」
「ええ?でも、足音って二つするような気がするんだけど・・・・・・」

ごくんと息を呑んで、
恐る恐る振り返ってみたら。

「ねえ、神谷さーん。どうしてこんなに言っているのに、わかってくれないんですか?」
「わからないものは、わからないんですっ!!」

ぷりぷりと怒りながら、威勢よく歩いてくるセイと、その後ろから彼女を追いかけるように小走りで総司がやってきているではないか。
傍目には何故セイが怒っているのかわからないが、どうせいつもの他愛の無い喧嘩だろうと思われる。
こんなことは新撰組では日常茶飯事なので、驚くことでもない。
土方ではなかったことに、藤堂と原田はほっと一安心する。
一方、セイは原田と藤堂の姿に、足を止め、怪訝そうな表情をした。
確か、二人ともこの時間は稽古をしているはずではなかったのだろうか。しかし、どう贔屓目に見ても二人が稽古をしているようにはみえなかった。
首を傾げ、当然の疑問を口にする。

「お二人とも、何をやってるんですか?」
にっこりと輝くような笑顔で、藤堂が答える。
「見てわからない?涼んでいるんだよー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そうそう。こう暑いとなぁ。っと、神谷こそ何やってるんだよ?後ろの総司は?」
セイの呆れ顔をかわそうと、原田は彼女の注意を逸らす為、後ろで仲間外れにされていじけている総司を指差した。
「あっ・・・・」
そこで、セイは総司と喧嘩していることを思い出す。
慌てて視線を総司の方にもどすが、彼は、
「かーみーやさん。酷いじゃないですか。無視するなんて」
恨めしそうな表情をしていた。しかしセイも手馴れたもので、
「何度も言っていますが、私は絶対甘味処なんて行きませんから!」
きっぱりはっきり言い放った。
「えー。何でですか?こんな暑い日こそ、鍵善の葛きりじゃないですか」
「だって、先生。今日こそ最高記録を更新するとかいってらしたじゃないですか」
「うわ・・・・・・。それは勘弁だねぇ・・・・・」
「聞くだけで胸焼けしそうだな・・・・・・・」
総司の甘いもの好きは知っていたが、ここまでとは、
と思わず口を挟んでしまった彼らの言葉にセイは、意を得たりというように、うんうんと大きく頷く。
そして、勝ち誇ったように総司に、
「ほぉら。藤堂先生も原田先生もこうおっしゃっているじゃないですか。
諦めて、行かれるのでしたら、一人で行ってください。私だって、葛きりを食べたいですが、
もうあのときのようなのは御免ですから」
脳裏に浮かぶのは、総司が16杯も葛きりを食べた日のこと。
あれはちょっとした悪夢だったと、今でもセイは思っている。

「何でみなさん、私のこの葛きりにかける想いをわかって下さらないんでしょうね・・・・・」

はぁ。と切なげに総司は呟き、庭に視線を移した。
しばらく何を見るわけでもなく、きょろきょろと視線を動かしていたが、何かを見つけたのか、おやぁというふうに、目を軽く見開く。
「あ。土方さんだ!ひーじかたさーーーーん」
にこにこ手を振りながら、叫んだ。
「あ。おい、総司!!」
「ちょっと・・・・・!!!」
「沖田先生・・・・・・・・」
稽古をサボっている藤堂と原田は慌てて総司の口を手でふさぐ。
しかしそれは少し遅かったようで、当の土方は、総司の叫び声に気づいたのか、縁側の方へやってくる。
「げっ・・・・・・」
こんなところを見られたら、間違いなくしかられるのに、それが何でわからないんだというように、恨めしげに総司を見つめるしかなかった。
セイも、顔を合わせる度に何かと言い合いになる、土方の出現にあまり良い顔はしない。
「おい、お前らそろって何やってるんだ・・・・・」
案の定、開口一番の言葉がそれだった。
「まさか、稽古をサボって・・・・・・。とか言うんじゃないだろうな」
「あははは・・・・・・」
眉間の皺が深くなるにつれて、藤堂たちは引きつった笑みを浮かべる。
彼らは心の中で叫ぶ。
(おい、総司。どうしてくれるんだよ・・・・・・!!)
と。
そんな彼らの心の叫びに気づいているのか、いないのか。
総司は、
「あ。土方さん、良い所に来てくれましたね〜v」
輝く笑顔を向ける。そんな笑顔に嫌な予感がしたが、土方はあえて何も言わなかった。
「今から葛きりを食べに行きません?みなさん、私と行くのを嫌がるんですよ」
「それは、当たり前だ!俺だって、勘弁だな」
「えー。何でですか。土方さんなら私の想いをわかってくれると信じていたのに」
べったりとくっついてくる総司を引き剥がし、
「暑苦しい!!」
怒鳴った。

土方が総司とやり取りをしていることをいいことに、セイたちは雷が落ちる前に
逃げようと、こっそりと立ち上がり、その場から立ち去ろうとしていた。
が、しかし、そんなに上手くいくはずも無く。
そして、また敵は土方だけではなかったのだ。


「あ。いたいた。せーいざーぶろうーーvvvv」


巨大なハートマークを飛ばしながら、伊東が現われた。

「「うわっ」」

セイは一瞬で凍りつき、土方は思わず総司の影に隠れる。
にこにこと満面の笑みを浮かべ、近寄ってくる伊東。
この暑さなんて気にならないのか、彼はきっちりとした格好をしていた。
服も髪も乱れなんて何一つ無い。

「おや、これは好都合v土方君もそこにいるじゃないかvv」
総司の後ろに隠れている土方を目ざとく見つけ、嬉しそうに微笑んだ。
「伊東先生、そのような格好をして、暑くないのですか?」
気を逸らそうと、話しかける藤堂に、よくやったと心の中で拍手を送るセイと土方。
いつもならば、興味の無い者など無視する伊東であったが、今日はどうしたことか、きちんと彼の問いに答えてやっている。
「そう。流石の僕も暑いのだよ。だからね」
うふふふと。笑う。
その笑い声に、背中に冷水を浴びせられたように身震いをする、セイと土方。


「みんな、今から僕と川原に涼みに行こうではないか」
「はっ??!!」
セイと土方の驚きは、すぐに原田と藤堂の言葉によってかき消された。
「おお。それ良いですね!!」
「いきます、いきます」
伊東の提案に即効で返答する、二人。
伊東の提案ならば土方もむげに断るわけが無い。
それに、こんな暑い日に稽古なんてやってられるかという彼らが、賛成しないわけが無かった。
「うふふふ。これで、清三郎と土方君の水に濡れた姿が見れるというもの」
そんな彼らの性質を利用した。己の欲望のためなら何処までも突っ走る、
恐るべし策士、伊東であった。
「ちょっ、ちょっと・・・・・・」
「おい、お前らっ!!!」
慌てふためく土方とセイだが、多勢に無勢。そんな状況の中では、敵うはずも無い。
うふふふと、笑う伊東をなるべく見ないように、


(ふ、副長もいるんだし。
沖田先生もいるから大丈夫だよね。
う、うん。)

(・・・・・・神谷がいるから、いざとなったらコイツをおいていけばいいな。)

自分にそう必死に言い聞かせるのであった。




****  ****  ****  ****




「そーれ!!」
「うわっ。止めてよ原田さん!!」

川原を駆け下り、
じゃぶじゃぶと、水の中につかり水をかけあう、藤堂と原田。

「ほら、清三郎も入ったらどうだい?」
「か。神谷さんは私と」
セイが女子だということを知っている総司は、慌てて伊東からセイを引き剥がそうとする。
しかし、伊東はそんな総司の手を鬱陶しそうに振り払い、
「駄目だよ、土方君と清三郎は僕と遊ぶんだから」
セイと土方の手を取った。
「何で俺がそこに入っているんだよ!!」
「わ、私は沖田先生の所にいきたいなーと。副長一人で十分だと思いますよ」
「神谷、てめー。副長に向かって言う台詞か?それ」
「だって、犠牲者は一人の方が良いじゃないですか!安心してください。
副長の勇姿はきちんと目に納めておきますから」
いつものごとく、押し付け合いが始まったが、伊東はあくまでも自分のペースで進めていく。
二人の手を取ったまま、川に向かって一気に走っていった。
「ほーら、行くよー」
「お、おい・・・・・っ」
「きゃ・・・・・・・・・っ」
言い合うことに夢中だったセイと土方は、思わず伊東に引きずられてしまう。
「あ、二人とも・・・・・・・・・」
どうしようかと思案していた総司は、伊東の思い切った行動に、慌ててセイの方へ腕を伸ばす。
だが、間に合わない。


ざぶんと、大きな音が川辺に鳴り響いた。
伊東に引き込まれるまま川の中に浸かってしまった、セイと土方。
突然訪れたひんやりとした冷たい感覚に、セイはぶるりと身を震わせた。
「冷たい・・・・・」
水に浸かった所為で、服が張り付きくっきりと、までは行かないがかなり
セイの華奢な身体の線を浮き彫りにしていた。
「あれ?清三郎。君って本当に線が細いんだね。益々僕好みだよ」
「えっ。そ、そんなことはないですよ」
うっとりとした視線を浴び、ドキリとするセイ。慌てて言いつくろうとしていると、
意外な処から助けはあらわれた。



「ここに、いたんですね。甲子太郎さん。探しましたよ!」
「こんなところに居たんですね」
現われたのは、内海と斎藤。珍しい組み合わせであった。
伊東を探し回っていた内海と町で出会った斎藤は何をするわけでもなく、彼についてきていた。
「あははは。いいところに来たね。うん。今日は皆で遊ぼうじゃないか」
呆れた顔をする内海に、笑顔で伊東は言う。
しかし散々探し回った挙句、突然そんなことを言われた内海は目を見開き、
「はぁ・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・」
一体この人は何を言い出すんだというような、顔をする。
一方斎藤は、相変わらず無表情で何を考えているのかわからない。無言であった。


「あ。斎藤先生、良い所に来てくれました」
ピンチに陥っていたセイは斎藤の姿を見つけ、助けを求めるように言った。
斎藤は水の中に浸かっているセイの姿を見つけると、
「うっ・・・・・・・・・・・」
軽く呻いた。

どっきゅん

水に濡れた彼女の艶かしい姿を見て、彼の胸は大きく高鳴った。
そんな彼の犠牲になった内海は、何処までも不幸であろう。
「よし、行こうか、内海さん」
「あ、貴方まで何を仰るんですか・・・・・・・っ」
斎藤にがっちりと手を取られ、内海は慌てる。
「おー。いらっしゃい、斎藤さんv」
「ほーら、気持ち良いですよ」
藤堂と原田は手招きしながら呼んでいる。
「ひーじかたくーーーんvv」
ざばざばと水をかき分け土方のもとへ行く伊東。
水の抵抗なんてなんのその。そのスピードは驚異的であった。
「だから、こっちに来るなと言っているだろう!!」
「甲子太郎さん。待ってください!!」


騒ぎの隙に川原に上がり、非難したセイは総司の上着を貸してもらった。それを羽織るとようやくほっと一息つくことが出来た。

「みんな、元気ですねー」
夏ばてなんて、彼らには必要ない言葉のように思える。
隣に座っている総司は、切なげに、
「私としては、葛きりに行きたかったんですけどね・・・・」
言った。
相変わらずの彼の台詞に、セイは苦笑する。
「今度付き合ってあげますよ。」
「本当ですか?」
「ええ。ただし、一杯だけですけどね」
「え・・・・・・・・・・・・・」


目を細め、川を見つめる。
めったに見れない光景に、セイの口元には自然と笑みが浮かんでいた。


「夏も、もうすぐ終わりますね」
「うふふ。最後に良い思い出できたんじゃないですか?」
「そうですね。でも副長にとっては、悪夢でしょうけれど」
「たまには、良いんじゃないですか」


二人で顔を見合わせ、笑った。




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過ぎ行く夏


二度とは戻らない夏


だから願う


この時が長く続きますようにと


来年も皆で こうしていられますようにと






川原には笑い声が響いていた  





琳さんから、頂きましたお品です(^^♪

琳さん宅「天使の梯子」様が、先日閉鎖されたのですが、(哀しいです・・・・・・・。でも、お疲れ様でした(^^))

その際、フリー作品としてUPされていたので、大事にお持ちかえり致しましたv

琳さんの作品はほんわかしているところが大好きなのです。

心が温かくなれるような癒されるような感じ(^^♪



この「残暑」は主要人物は全員登場という豪華キャストのお品ですが、それぞれキャラらしい言動に 楽しませていただきました。

そして、相変わらずのカッシーvv

あんまりおいたすると、お世話係の内海んの胃に穴が開きそうです(笑)

総司は葛きりをさらに記録更新すると頑張っていますけれど、もう流石ですね。

先日、京都へ訪れた際、試しに葛きり食べてみたけれど一杯どころか三口ほどでギブアップしてしまいまして(^^ゞ、 総司のすごさを改めて感じました(笑)

それから、斎藤さんvv

「どっきゅんvv」でお馴染みの彼ですが、なかなか憎めない性格をしていますよね。

道連れになった内海んに合掌です(笑)





このお品、本来ならもっと早くにUPすべきところをこちらの不手際で遅くなってしまいました。

琳さん、ごめんなさい<(_ _)>





皆で楽しく過した夏。

生と死の狭間に生きる彼らにとって、この楽しい一時が長く続きますように。

来年も同じメンバーでこうして楽しむ事ができるようにと思うと 最後の最後で胸が切なくなりました。





琳さん、素敵なお品をフリー作品にしてくださってどうも有難う御座いましたvv