変わらないもの


琳様









見上げた空は 何処までも 青い

だから単純に こんな日々が


ずっと ずっと 続くと思ってた



*****   *****   *****



いつもの屯所での朝
否、新選組副長、土方歳三にとっては、少しいつも朝とは言い難い
昨日、何故だかとっても機嫌の良かった近藤に付き合って、余り好むとは言えない酒を
飲みすぎてしまった所為だろうか
爽やかな天気とは裏腹な気分に、心の中でそっと溜息を吐く


すっきりしない頭を抱え、廊下を歩いていると

「おっ」

反対側から歩いてくる平隊士と目が合った
隊士は土方が近づくにつれ、顔を奇妙なほどに強張らせる

「おい、お前?」

俺は珍獣か何かかよ、と元から機嫌が良かったわけではない彼の気持ちをさかなでるような表情に、自然と詰問するような口調になる


睨みつけるような土方と隊士の視線が交わった瞬間、

「・・・・・・・・・!!」

彼は一瞬大きく目を見開き、

「し、失礼しますっ」

何て言って、大きく回れ右して、走り去って行った


「・・・・・・・はぁ・・・?!」

一人取り残された土方は、こめかみの辺りを押さえ、低く呻いた



その後も散々だった
誰も彼もが自分を見る度に、顔色変えて逃げ出すのだ
詰問する暇さえ与えずに
良い度胸だと思う反面、俺が何をしたんだ?と疑問は募る
必死に昨日の記憶を辿るが、理由も何も思い浮かばない

イライラする
こんな気分の時に、解けない謎など、不機嫌の材料でしかない
こうなったら、次にあった奴を問答無用で締め上げるか・・・?
なんて物騒なことを考えていた時、背後から

「あ。おーい。土方さん」
「あ。良かった、土方さんのこと探してたんですよ」
「・・・・ん?」


馴染み−原田と藤堂−の声に、ようやくこのわけの分からない状況を説明してくれそうな気がして、
振り向く土方

「・・・・・・・!!」


土方の顔を見た瞬間、
二人の目がゆっくりと大きく見開かれ
同時に奇妙なほど歪んだ顔をする

「おい・・・・」

これまでの人たちとは異なった反応をしてくれるのでは、という淡い期待は、見事に裏切られ、思わず舌打ちしたくなる
お前らまでかよ、と、言いかけた言葉は、豪快な笑い声によって
最期まで紡ぐことは出来なかった

「あはははは。何ですか、土方さんっ!」
「ちょ、ちょっと原田さん、笑ったら失礼だよ。・・・・っ」
「そういうお前だって、笑ってるじゃねーか」
「これでも、我慢してるんだから」

肘をつつきあう二人に、ますます土方の眉間の皺は濃くなる

「おいっ」

冷え冷えとした空気に、笑い声を止め、ぴしりと固まる二人

「一体俺に何が起こっているのか、説明してもらおうじゃねぇか」
「・・・・・・・えっと。あ。そーじっ」

苦し紛れに、逸らした視線の先に居たのは、沖田総司で
思わず、原田は彼の名を呼んだ
それが、多きな、過ちだとも気付かずに


「何ですか、原田さん?・・・って」

呼ばれた総司は、とことこと3人に近づき、これまでの人々と同じように、土方の顔を見て、目を丸くした

しばらく顔を眺めた後、総司は彼の顔を指差し、

「あはは。土方さんったら、まだ顔にそんなのつけてるんですか?」

誰も言うことが出来なかったことを、あっさりと、しかも笑顔で言った

「うわ。馬鹿、総司」
「言っちゃったよ、こいつ・・・」

原田は顔を手で覆い、藤堂はこれからの騒動を思い、天を仰いだ


「顔・・・・?」

総司の言葉に土方は、思わず頬を手で撫でてみるが、良くわからない
縁側を下り、池に映った自分の顔を見て、土方は固まった

「・・・・・・・!!?」


これが、夢ならば、今すぐ覚めて欲しいと思ったのは、誰だったのか
自分の顔を見るのもおぞましいと思ったことは、土方にとって、生まれて初めての経験であった
彼の顔には、くっきりと墨で、様々な模様が書かれていた
眺めているだけで、ぴくりとこめかみの辺りの血管が脈打つ
まあ。眉を濃くしていることは、百歩譲って、許せよう。しかし、この無意味な髭(だと思われる)は一体何なのか
頬に書かれている模様は何なのだろうか
見れば見るほど、疑問は、否、憤りは募っていく


「良く書けてるでしょう?私と近藤さんと一緒にやったんですよ。
少しでも土方さんの顔が皆に親しみがもてますようにって」

にっこりと天真爛漫のような笑顔に、何故だかとっても寒気を覚える藤堂と原田
無邪気ということは美徳かもしれないが、この場合、怒りを助長するものでしかないのは、恐らく気のせいではないはず

ゆっくりと池から顔を上げ、総司の方を向く土方
流石に殺気立った空気に、総司の笑顔を消し、後退しようとするが、
そこは土方の方が早かった

「総司、てめぇ・・・っ!!」

首根っこを捕まえ、思いっきり怒鳴った

「み、耳元で、怒鳴らないで下さいよ。悪気は無いんですってば」
「俺は、この面で何人の隊士に朝から会ったと思ってるんだ!」
(気付かない土方さんも、どうかと思うんですけど・・・・)
思わず心の中で突っ込んだ総司に、聴こえているはずなんてないのに、
平隊士であったら一瞬にして震え上がるような視線を送る

「・・・・・・。えっと、土方さん、そんなにしかめっ面してたら、
せっかくの男前な顔が台無しだと思うんですけど・・・」

気を逸らそうとした総司の言葉なんてさらりと無視して、そっと、耳元に口を寄せ、

「さあ。どうしてやろうか、総司?」
「・・・・・・・・・っ?!」

何故だか壮絶な色気と殺気を含んだ声音で囁かれ、総司は思わず背筋が震え上がった
悪戯だったつもりだったけれど、これは一線を越えてしまったのだろうか
じたばたと慌てて、見物人していた原田と藤堂に救いを求めるが、

「ちょっと、笑ってないで、助けてくださいよ!」
「自業自得だと思うな」
「そうそう。諦めるんだな、総司」

彼らは楽しげに笑うのみ
友情って紙切れ一枚よりも軽かったんだなんて、実感しても状況は変わるわけでもなく
寧ろ悪くなっていく一方で
やられたことはきっちり、のしをつけて返す男、土方がこんな絶好の機会を逃すわけでもなく、


「お返しに、俺がお前を男前にしてやるよ」
「結構ですってば。ああ、もう、どこから筆を持ってきてるんですか、原田さん!」
「お前らにも書かせてやろうか?」
「ちょっと、煽らないで下さいよっ。やったのは、私だけでなく、近藤さんもなのに、これは不公平じゃないですか!」
「・・・近藤さんは良いんだよ。今はお前だ、総司」
「そんな〜っ!!」



青空の下

笑い声と悲鳴が木霊した


*****   *****   *****



楽しい時間はあっという間に終わる

だけど覚えていて

確かに僕らは此処で 同じ気持ちで 同じ時を過ごした時もあったということを



青い空は いつまでも 何処までも続いていくから


きっと 変わらないものも あるのだから







琳さんから卒業&合格&入学お祝いに頂いたお品でございます(*^^)

ぷぷぷぷ。

歳の落書き顔、見てみたかったです。

きっとほっぺはぐるぐるうずまきだと勝手に推察。

おでこには「肉」と書かれていたりするのでしょうか(笑)

こういう他愛もない悪戯行為というのは、江戸にいる頃では日常茶飯事だったのだろうなぁと。

何だかこちらまでふふふと笑ってしまうようなそんな微笑ましいお味のお品でございました。

変わってしまうものもあるけれども、いつまでも変わらないものというの確かにありますよね。

そして、それがひどく大切なものだったりする。

琳さん、この度は御丁寧にお祝いの作品を届けて下さいまして、どうも有り難う御座いました(*^^)

とっても、嬉しかったですv