「護衛」


sarasara様



「いつまで付いてくる気だ?」

屯所を出てからずっと後から付いてくる足音にとうとう痺れを切らして、土方歳三は振り向きざまに怒鳴った。

「護衛に、と思いまして。」

若者は澄まして答えた。

泣く子も黙る新選組の、その中でも鬼と称されている副長に怒鳴られて、

こんな飄々とした態度を取れるのはごく少数の者しかいないだろう。



「ほーぅ!―― 童が言うじゃねえか。」

土方が片眉を上げて、にやりと笑った。



「だがな、俺の護衛の前にお前にこそ護衛が要るように見えるぞ。もう童がうろつく時間じゃねえはずだが。」

「私はもう童じゃありませんよ。」

憤慨するかと思いきや、静かに、しかしきっぱりと言い放つ若者に、土方は一瞬二の句が継げなかった。

まじまじと若者の顔を見詰める。









若者の名は神谷清三郎。

少し前に土方の小姓になった新選組隊士である。

女に見紛うほどの愛らしい顔立ちとほっそりとした体付きは、他の隊士達の心を惑わすに充分すぎるほど。

神谷を巡る何かしらの騒動は絶えることがない。

それへの監視と別な思惑もあって、土方は自分の小姓へと配置換えを行ったのだ。



照れ隠しもあって、何かにつけて「童」とからかう土方だったが、

清三郎の方も「童」と言われる度に向きになって反論し、負けてはいない。

双方この調子なので副長室は実に賑やかだった。



だが、いつもの調子とは異なった清三郎の口調と、月夜に照らされた彼の顔が大人びて見えたのとで、

土方は内心驚いた。



「勝手にしろ」

土方は動揺を隠すように短くそう言い捨てると、身を翻して歩き出した。

清三郎も急いで後に続いた。

















土方が足を止めた。

黙々と歩いていた清三郎が見上げるとそこはとある揚屋の入り口だった。



「……副長?」

「お前はどうする?」

土方が意味ありげに笑った。

「!!」

清三郎はつと赤くなった顔を背けた。

どうする、と言われても困る。かといってこのまま帰るというのも間抜けな話だ。



「何だ、入らないのか?初めてでもあるまいに。」

清三郎が困った顔をして黙ったまま俯いているのを見て、意外そうな顔で土方が言った。



「‥お仕事じゃなかったんですか?」

清三郎が返事の代わりに咎めるような目差を土方に向けた。

「ふふん‥。これも仕事の一環だ。情報収集は欠かせないからな。」

尤もらしく言う土方に

「そんなものですか?」

と、清三郎が目により疑いの色を濃くして答えた。







「入らへんの?」



土方がまた何か言おうとした時、柔らかな声が割って入ってきた。

驚いて振り返る二人だったが、土方の方はその声の主を確認すると、ふっとその緊張を解いた。

「なんだ。花君か。」

「なんや、その言い方やと当てが外れはったみたいやね。誰やと思わはったん?」

その話しぶりからして花君と呼ばれた芸妓は土方の馴染みらしい。

親しげに話す二人を交互に見ながら、清三郎は自分がここにいることが不似合いなような気がしてきた。







「ずいぶんとかいらしい方どすなぁ。」

俯いていた清三郎の顔を覗き込むように花君が言った。

清三郎は驚いて顔を上げる。

「ははは。まだ童だからな。」

土方の言葉に清三郎は、きっと土方を睨んだ。

「また、そないなことゆわはって…」

花君がやんわりと土方を窘めた。

清三郎はだんだんと居た堪らない気持ちになってきた。

屯所では見たことがないような土方の顔、男とは違って女相手だとこういう顔を見せるのだろうか。

それに、花君の物腰。

柔らかく品があり、見惚れてしまいそうだ。

なのに、何故か嫌悪感のようなものを感じてしまう。







(そう、このもやもやとした気持ち、どこかで経験したような…。)

(!!!)

(兄上。…里乃さん。……。)





清三郎は愕然とした。

何故、土方と花君に兄上達の姿を重ねたのだろう…。

そして何故自分は同じようにそれを嫌だと思ってしまうのだろう…。

総司と小花を見た時のように……。











「か、帰ります。」

唐突に清三郎が叫んだ。そして挨拶はおろか、返事さえ待たずに駆け出した。



「おいっ!神谷、待て。」

土方が驚いて止めようとするが、もう既に清三郎は行ってしまっている。

「まったく、あいつは。」

軽く舌打して、清三郎の姿を目で追う。



「いったいどないしはったんやろね?」

花君が首を傾げた。

土方は一つ大きく息を吐くと、首を振って

「……すまんな。俺も戻る。おまえも客に呼ばれているんだろう?」

と言った。

「そうどす。ほな…。」

「ああ、またな。」

花君が会釈したと同時に、土方も清三郎が去った方向へ足を向けながら言う。

そして急いで清三郎の後を追った。

















息が切れたところで、清三郎は一度足を止めた。

動揺してしまった自分が信じられない。

そうだ、これは何かの間違いだ。きっと、そう。

清三郎は自分に言い聞かせるように何度も心の中で呟く。

そして、再び歩き始める。





その数歩後に、自分を護衛するかのように注意深く続いている影の存在には気付かずに ――― 。





sarasaraさん宅「和貴相愛」祝1万打記念のお品を早速、お持ち帰りしてきました。(*^^)

セイちゃんが自分の中にあるかすかな気持ちに気付き始める瞬間。
いいですよねぇ・・・vvv(じゅるり)

歳は自分自身の気持ちには気付いているように見受けられますが、走り去っていったセイちゃんの後を追い、「護衛」している その情景が思い浮かびます。
「護衛」の題名の意味は最後にわかるという何とも素敵な作品。
こんな感じの作品も女将は大好きです。

この後絶対続きがあると、何度もスクロールしてみた女将ですが、同じ想いをした方はきっと女将だけではないはず!
是非是非、この続きを拝読したいです。
sarasaraさん、この度は1万打おめでとうございましたvv