「緑」
千鶴様
「副長、お茶をお持ちしました」
「あぁ」
小姓であるセイは、障子を開けて土方のいる副長室に入る。
土方の向かう文机の空いている場所に、湯飲みと「ある物」をそっと置いた。
「…おい、こりゃ何だ」
筆を止めて、土方は聞く。
「何って、お茶菓子です。見ればお分かりでしょう?」
何事もなく、セイが答える。
「そういうことを言ってんじゃねぇ。俺が甘いもんが苦手だって事、知ってるだろうが。お前は」
「ええ。ですから、あまり甘くないものを買って参りました。抹茶味なんですよ、それ」
緑葉 -Ryokuyou-
土方が言っているのは、湯飲みの横に置かれた皿の上に乗った、緑色の菓子。
丸い葉を模ったその形が、なんとも可愛らしい。
「近藤局長にも、斎藤先生にも好評でしたよ。このお茶菓子」
「近藤さんは分かるが、何で斎藤が出て来るんだよ」
「辛党の斎藤先生が食べられれば、副長も大丈夫だろうと思いまして」
「抹茶だろうが何だろうが、茶菓子はいらねぇ」
「じゃあこれ、どうするんです?」
「総司にでもやればいいじゃねえか」
菓子なら総司だろう。土方の顔がそう言っている。
「沖田先生にも差し上げましたけど、『甘いですけど、苦〜い』って涙目になってました」
「ったく、アイツはガキかよ…」
その光景がありありと思い浮かび、土方は弟分の情けなさに呆れる。
「ですから、これは副長がお食べになってください」
「いらねぇ」
実はそうでもなかったのだが、最初に張った意地のせいでそう言えない土方だった。
「折角買ってきたんですよ?たまにはお茶菓子くらい、お食べになってもよろしいじゃないですか…」
セイは頬を少し膨らませながら言う。
そんなセイを見て土方は、はぁと溜息を吐く。
「分かった。じゃあ半分だけ食ってやる。残りはお前にやるよ」
「仕方ないですね。はいどうぞ、副長」
小柄で菓子を半分に切って土方に差し出す。
土方はその半分を手に取り、口に運ぶ。
「甘苦ぇ…」
少しだけ、顔をしかめてそう言った。
「でも、おいしいでしょう?」
そう言いながら、セイは土方に本当にいらないのかと瞳で尋ねる。
土方は、いらねぇ、お前が食えと言わんばかりに、嫌そうな顔でこちらを見た。
仕方ない、それでは、とセイが残りの半分を食べようと、菓子を手に取って口元へと持っていく。
菓子がセイの口に入った瞬間、土方はセイを引き寄せ、口を重ねた。
「!?」
「やっぱり、甘苦ぇ」
土方はセイの口内から舌で菓子を奪い取っていったのだった。
セイは咄嗟に土方から離れ、口に手を当てて顔を真っ赤にしている。そんなセイをニヤニヤと土方は見る。
「とっ突然、何をするんですか!?」
「何ってお前、当然だろ?」
「当然って…」
「ほぉ、俺とあんな事までしてまだわからねぇか。じゃあ、今からじっくり教え込んでやるよ」
そう言って、土方はセイに意地悪な笑みを向けた。
「いっ今からって、ちょっ、副長。仕事は!?」
「そんなもん、あと少ししか残ってねぇよ」
ずずいとセイに近づく土方。それに合わせて、セイは少し後ずさる。
「誰か来たらどうするんです!?」
「大丈夫だろ。ここに近づく奴なんてそういねぇよ。近藤さんも留守にしてるしな」
そう言いながら、土方はセイを捕まえ畳の上に押し倒し、唇を重ねる。
「ふ…」
副長、と言い始める前に口を塞がれ、その隙間から容赦なく口内に侵入してくる。
手馴れた土方に抵抗できるはずもなく、セイはされるがままになってしまう。
(〜〜っ、もう副長にはお茶菓子なんて出さない!)
そう強く心に決めたセイだった。
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