御年賀


月子様



直ぐ横の境内から鳴り響く除夜の鐘を聞きながらセイはそっと手を合わせた。
屯所の中は年越し蕎麦を啜りながらの酒宴が続いている。



除夜の鐘は今年一年作った罪を懺悔し、これから作る罪を懺悔し、煩悩を除くという。




犯した罪を悔いはしないが、私の刃(やいば)で倒れた人が少しでも極楽浄土に近付けるように願う。

新しい年を迎えても私はまた、刃を握り人を斬る。が、出来ることなら少しでも無駄な殺生のないように願う。

こんな事を考えると沖田先生に「そんなことを願うのなら、今すぐ刀を捨ててお嫁に行きなさい」と言われるだろうけど。




彼の人を思い漏れる微笑。
しかし、セイは直ぐに顔を引き締めきつく目を閉じると、合わせる手に力を込めた。




煩悩・・・・・愛着・・・執着・・・


先生に対する離しがたい愛着。
女の自分に対する捨てがたい執着。

武士の私が持ってはならない心(もの)を削ぎ落としてしまえるのならば幾らでも仏に願おう。





どのくらいそうしていただろう。
ふと顔を上げると横に愛しい顔が優しく微笑み掛けていた。

「先生・・・」

「神谷さん、明けましておめでとうございます」

「え、あ、もう、年明けましたか」

「やだな〜、気が付かなかったんですが。私は年が明けて一番に貴女の顔が見たくて屯所中探し回っていたとゆうのに」

「ええ〜。わ、私を捜して下さってたんですか・・・い、一番に私の顔が見たいなんて・・・」

総司の思いも寄らない言葉に頬が火照るのを感じ、冷え切った指を頬に当て熱を冷ます。
その手を総司が優しく取るとそっと自身の両手で包んだ。

「一体どのくらい此処に居たんですか。こんなに指冷たくして・・・お正月早々風邪でも引いたら大変ですよ」

「す、すいません。除夜の鐘を聞いていたんです」

指を取られたまま火照る顔を隠すように俯き、セイは答えた。

「あんな怖い顔をしてですか」

両手の中でセイの指をさすりながら総司は問う。

「怖い顔って、私がですか」

「ええ、凄く怖い顔してましたよ」

「酷い。怖い顔なんてしてませんよ、私。・・・仏様に沖田先生の煩悩が無くなるようにお願いしてたんですよ」

俯きがちだった顔を上げて真っ赤な顔でセイは言い返した。
真っ赤な顔は怒りからか、未だ離されることのない指のせいか。

「酷いのはどっちですか、私に煩悩なんて無いですよ。私は清廉潔白ですからね」

「よく言いますよ、甘味に対する先生の欲ったらとんでもないじゃないですか」

「そ、それを言われると・・・」

「ふふん、でしょ。しっかり仏様にお願いしときましたからね」

勝ち誇ったように言い切ると

「さあ、そろそろ中に戻りましょうか。先生まで風邪引いちゃいますよ」

絡め取られた指と心を振り解こうと踵を返すが、思いの外強い力で包み込まれた指は未だ解かれることはない。

「寒いですか」

「ええ、少し」
 
「ならこうしましょう」

指を解放されたかと思う間もなく、次は総司に背後から躯総てを包み込まれてしまった。

「せ、せ、先生。なにするんですかーーーー」

頬だけではなく躯中が熱くなり、声が上擦る。

「だって、こうすれば寒くないでしょ」

「ま、まあ、そうですけど」

「だからもう少しこうして新しい年を二人で過ごしましょう。ね」

「・・・はい」



他に答える術など無い。
それを知っていてこの人はこんな事を言うのだろうか・・・
今年も私の煩悩は祓えることがなさそうだ・・・


「改めて・・・先生、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


来年も再来年も先生のお側に居られますよに・・・







明けましておめでとうございます
今年一年が貴女にとって素晴らしい一年になりますように・・・・・





月子おかあはんからお年賀に頂いた沖セイssですv

このしっとりとした味、おかあはんの味がします。

武士として総司の傍にいようと心に決めたけれど、なかなか捨てられぬ女子としての想い。

除夜の鐘がその想いをなくしてくれるのならば、どんなにか「楽」になるのでしょう。

でも、完全なる「楽」になれないからこそ、人であると言えるのかも知れません。

いつ死ぬか分からない日々を過ごしているからこそ、新年を迎えられた嬉しさありがたみを感じるのかもしれません。

月子おかあはん、この度は御年賀を頂きまして、どうも有り難うございましたv