ひどく気持ちが落ち着かない。
あの子は利発な子だから仕方がないとは思うけれども、あまりあの人のことについて気付いて欲しくなかった。
意地っ張りな所も。
意地悪の裏に隠されているものも。
照れ屋なところも。
どれだけ自分を責めているのかも。
少し前まで「鬼副長はひどい」と頬を膨らませる貴女に、私は苦笑しながら話を聞いていた。
それでも最後には「でも、私、鬼副長とはそりがあわないみたいです」と鼻息荒く言うものだから、似ているところはあるのにと思いながらも「そうですか」と受け流していた。
けれど、あの日。
貴女があの人の小姓となった日から、変わったような感じを受けている。
いつもいつも言い合いをしていた貴女がやけに優しい目であの人を見て、
そして、あの人も貴女を可愛がっている。
「沖田先生、副長ってへそを曲げたらてこでも動かないんですよ。でも、そこが副長らしいですけれど」
「沖田先生、副長をお褒めしたら思い切り怒鳴られてしまいました。本当に照れ屋さんですよね」
「沖田先生、副長って全てを背負っておられるのですね。倒れないか心配なのですが、それを口にするとまた怒鳴られてしまいそうで、言えずじまいなのです」
久しぶりに貴女を団子屋へ誘い、話をすると話題は全てあの人のことばかり。
呼称も鬼副長からただの副長になっており、貴女が嬉しそうに話す様子を見て
私は複雑な気持ちを抱いた。
幼い頃から見続けていたあの人のことを昨日今日の付き合いで分かって欲しくないという気持ちと。
貴女の小姓生活が順調にいっていることへの安堵感と。
混ざり合った気持ちは軽やかなものではなかった。
廊下の向こうに障子が開いている副長室が見える。
お茶を注ぎ、墨をすり、掃除をし・・・・・・。
すっかりと貴女はあの人の小姓となっていた。
あの人も表情が穏やかで、遠くから見ると仲がよさそうにみえた。
貴女はこれからもあの人の良き理解者となり、私よりもあの人と近い距離で生きてゆくのかしらと思うとひどく気持ちが落ち着かない。
ふと空を見上げた。
思わず苦笑が漏れる。
これでは、まるで私があの人に恋でもしているかのようではないか。
貴女があの人の名を呼ぶ度に
貴女があの人に近付く度に
この気持ちがざわめいてしまう。
あぁ、そうか。
急に頭がすっきりした。
私はあの人にではなく、貴女に恋をしているのだと。
貴女がそんなにもあの人のいいところに気付いてしまう事に焦燥感を覚えたのは・・・・・・。
あの人があんなにも貴女のことを優しい目で見ていることに焦燥感を覚えたのは・・・・・・。
きっと・・・・・・。
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