風邪は万病の元




昼御飯を食し、まったりと時が流れるこの時間。

総司は両手に抱えきれぬほどの御菓子を持って、副長室を目指していた。

今日は一度も土方と話していないという寂しさもあったが、朝方ちらりとみた土方に元気がないように思われたからだ。

・・・・・・どこか体調が悪いのかな・・・・・・

そういえば、昨夜も言葉数が少なかった。



丁度午前の巡察の時、帰りにお気に入りの御菓子を沢山土方のために買ってきた総司は、なんだかんも文句を言いつつも 結局最後は自分が持ってきた御菓子を食べてくれる土方を思い浮かべながら、副長室の前にたどり着いた。







「土方さん、総司です。遊びに来ました」

いつものようにそう声をかけるが、返事がない。

だが、あきらかに部屋内に人の気配があるのである。

副長室には、土方とそして最近小姓になったセイの二人がいるはずである。

そして、気配も丁度二つ感じられる。





「土方さん、神谷さん、総司です。中入ってもいいですか?」



心なしか強く尋ねながら、障子を開けると丁度、セイが障子を開けようとしていたところだった。



「もう、いるならいると返事して下さいよ。毎日遊びに来るからって、そんなに私のことを邪険に扱わなくてもいいじゃないですか」

しくしくと涙をながす総司にセイは慌てて、首を横に振る。

「違う、違うの」というような表情に総司はホッとする。

「そうそう、お二人に私のとっておきの御菓子を持ってきました。朝、土方さんを見たとき元気なさそうだったから、甘いものでも食べて疲れをとってもらおうと思って。もう、このお菓子は本当に美味しいんですよ。甘すぎない所がまた良いんです。で、流石は京菓子、口に入れるのが勿体無いほどの鮮やかさなんです。」

セイはにこりと微笑み湯飲みにお茶を三人分注ぐ。

用事がない限りは毎日総司が副長室へ遊びに来るので、総司の分の湯のみが副長室には用意されていた。

総司が沢山持ってきたお菓子のなかから、お勧めという御菓子を三人分皿に盛り付ける。

セイが土方に渡すと「要らん」とでもいうように、首を横に激しく振るが、セイはかまわず文机に置く。

土方が拒んでも総司が帰るまでには、食べる事をセイも知っているからだ。

「美味しいですねぇ」

早速頬張っている総司にセイは大きく頷き、にっこりと微笑む。

セイが副長付き小姓になってから、一緒に甘味処めぐりをすることはできなくなってしまったが、たまにならセイを誘ってまた甘いものを二人で食べてみたいと総司はセイはその笑みをみながら思った。

やはり、一人よりも二人で食べる方が美味しく感じられるからだ。

「土方さんも、どうです?」

まったく、お菓子には手をつけず、お茶だけ飲む土方に流すと顔をふいっと横に反らした。

「もう、土方さんの意地悪」

いつもなら、「こんな女子供の食うような甘ったるい菓子が食えるか」と怒号の一つが飛ぶのに今日は静かである。

いや、それよりも副長室へ来てから一度も二人の声を聞いていない。

自分ばかり話している。





「お二人とも、何か話してくださいよ。私一人話していてもつまらないじゃないですか・・・・・・」

拗ねる口調で言う総司にセイがひょこんと頭を下げ、続いて、喉に手を当てた。

「えっ?どうしたんです、神谷さん。もしかして、お菓子が詰まって声が出せないのですか?」

セイは首を横にふる。

「どうしたんです?」

流石に心配になってきた総司がのぞきこむように尋ねると、セイはしばらく土方の方をみてから、 懐紙をとりだし、すらすらと何かを書いた。





『副長も私も喉を痛めて声がでないんです。ごめんなさい』







「えっ?いつからです?昨日はお話したじゃないですか?」





『今日の朝起きたら、二人とも風邪を引いたらしく声が出なくて・・・・・・。だから、さっき沖田先生が声を掛けて下さった時も返事が出来なかったんです。ごめんなさい』



「二人一緒に風邪を引くなんて・・・・・・・やっぱり土方さんと神谷さんって相性がいいんですよ」

笑いながら総司がいうと、 土方、セイともにちらりとお互いを睨みつけるように見やり激しく手を振る。

「ほらっ、仕草まで一緒だ」

更に笑いを深くする総司に





『こんな鬼と一緒にしないで下さい』

『こんな生意気童と一緒にするんじゃねぇ』



と筆談による反論が返ってきたが、それはさらに笑いを助長することになった。

総司が二人をからかうたびに、土方・セイともに文机で文字を書いて反論してくる。

筆が一本しか硯にないので筆のとりあいをしたりして端からみていてとても仲良く見えた。





そんな様子をみて総司はふっと笑みをもらす。

セイの正体が露見し、土方の小姓となったのは先月の事だが、正直この似たもの同士が仲良く出来るか心配だった。

二人とも口は達者だし、すぐ喧嘩になるのではないかと・・・・・・。

しかしそれは総司の杞憂に終わったようで、そして以前よりも表情豊かになった土方に嬉しさを感じていた。

京に上ってからというもの、総司でさえ土方は江戸にいた頃との差が大きすぎて、戸惑いを感じていた。

近藤や自分たちにはそっと見せていた素顔もここ最近はとんと見られず、寂しくも思っていた。

それが、セイが小姓になったことにより、土方に以前のような表情がみられるようになり、セイが小姓になったのは、 セイにもそして、土方にも良かったことだと総司は考えていた。





『沖田先生、私やっぱり一番隊に戻りたい。どんなに辛い仕事でも同じ上司なら優しくて大好きな沖田先生の方がいいもの』



はにかみながら、セイが見せた紙に総司は笑みを濃くする。





『それでは、土方さんに内緒で戻っていらっしゃい』



総司も丁度持っていた矢立てを懐から取りだし、 わざと土方に内容が見えるように書いた。

土方の皺が一本増えたのを見て、総司とセイは顔を見合すと笑った。













その夜、総司はあたふたと土方が井戸へ入ったり来たりする姿を見かけた。

桶を持って水を汲むや否や、部屋に戻る。

しばらくして、また桶の中の水を入れ替える。

もしやと思い、総司が副長室を訪ねると、うんうんと唸っている高熱をだしたセイの姿だった。





「土方さん。言ってくだされば、お手伝いしたのに・・・・・」

そういう総司に



「静かにしろ」



と土方は口だけ動かして応えた。

土方の喉の様子はまだ悪いようである。





『さっき、ようやく寝付いたところだ。夕飯の時寒気がすると言っていたからもしやと思えば案の定この有様だ』



面倒くさそうに懐紙に筆を走らす。



『喉を痛めたからか、熱が高い。今ちょうど熱があがりきったところだろうから、冷やしている最中だ』



土方は、セイの額の手ぬぐいを替えると、



『ここにいても何もすることねぇぞ。明日早番だろう。とっとと寝ろ』



書きなぐった紙を総司に投げつける。

「でも、神谷さんが熱を出したという事は、明日当たり土方さんも熱を出すかもしれません。私も心配ですよ」



『へん!俺は神谷みたいに生っちょろじゃねぇや』



「江戸にいるとき、大病を患ったのはどこのどなたでしたっけ?」



『江戸にいるとき、麻疹にかかってしなびれていたのはどこのどいつだったか?』



「もう、私のことはいいんですよ」



『池田屋で倒れたのはどこのどいつだったか?』



「・・・・・・まだその話を持ち出しますか。私、これでもあの時のことは思い出すだけで恥ずかしい失態だと思っているんですよ。土方さんの意地悪」



『五月蝿ぇ。とっとと、部屋に戻れ』



しっしと手を振る土方に強引に追い出されるような形で総司はポイっと廊下に放り出された。

しばらく閉ざされた副長室の障子を見ていた総司だが、大きな溜息一つすると自室へと戻っていった。

「ったく、土方さんったら・・・・・・。見え見えなんですよ。貴方の心の中が・・・・・・」

果たしてそのつぶやきは声となって形をなしただろうか・・・・・。













寝付いたと思ったセイの口が動く



「副長・・・・・・。お気遣い無く・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」





トロンとした瞳をゆるりと開き、ごろりと土方の居る方に身体を向ける。

高熱ゆえか涙目になっている。



「寒くないか?」

声が出ぬ土方が口だけで問いかけると



「少し・・・・・・でも、大丈夫です」

とセイもまた口だけで問いかける。

いつもは廊下に響くぐらいの大きな声で喧嘩し合う二人だが、今夜は互いに声が出ぬので、しんと静まっている。

その静寂さに慣れぬせいだろうか。気恥ずかしい雰囲気が部屋内に漂う。



「副長は、まだ御仕事が、あるのですか?」

「いや、山南さんがしてくれるだと」

「山南先生が?」

「あぁ、お前が寝ている間に来て、仕事を全部持っていっちまった」

土方が苦笑しながらいうとセイは首を少し傾げる。

声が出ぬ会話は長文では矢張り伝わりにくいようだ

土方は懐紙に筆をすべらせる。



『総長が、先程来た。仕事、全部持っていっちまった。俺は、いいと言ったのに。副長は総長にはさからえないはずだと言って、強制執行された』



再度苦笑しつつもどこか悔しそうな表情を見せる土方にセイは軽く笑みを見せた。

「俺はいいと言ったのに。」という箇所に強調したいのか横線が引かれている。

手を差し出し、何か言いたそうなセイに土方は筆を渡す。



『山南先生はいつも副長ばかりに仕事をさせてしまって申し訳ないとおっしゃられていました。だから、たまにはいいのではと思います。むしろ、山南先生 きっと喜ばれていると思います。池田屋の時も中暑でやられさえしなければ・・・・・・と悔しがっていましたもの。仕事の仕上がりもきっと鬼よりも仏の方が 丁寧ですよ』



笑いながら懐紙を見せるセイに土方は軽く頭を叩く。

「それだけ、冗談言えれば大丈夫だな」

「へへへ」

「今日の分、明日しごくから覚悟しろよ」

「は〜い」

「じゃぁ、とっとと寝ろ」

「副長も。副長のお布団の分、私敷きます」

起きようとするセイを土方はとめ、そして、セイの布団を指さす。

よく見れば今セイが臥せている布団は土方のものであった。

それに気付き、セイは慌てて飛び上がる。

上司の布団で寝ているなど思いもしなかった。

すぐに身体をのかそうとするが、ついてゆかずその場にへなへなと座り込む。

「気にするな。俺が敷くのを間違えたんだ」

セイを寝かすと土方はセイの布団を蛇腹の向こう側に引いた。

「童の布団は、何だか小さい気がする」

からかうように言う土方に

「女たらしの布団は、何だか甘い香が漂う気がします」

とセイは言い返し、いつものように言い合いを交わしながら二人とも床に就いた。













翌日。

総司は今度はセイがあたふたと土方が井戸へ入ったり来たりする姿を見かけた。

桶を持って水を汲むや否や、部屋に戻る。

しばらくして、また桶の中の水を入れ替える。

もしやと思い、総司が副長室を訪ねると、うんうんと唸っている高熱をだした土方の姿だった。

「神谷さんが熱が下がったと思ったら、今度は土方さんですか。言ってくだされば、お手伝いしたのに・・・・・」

そういう総司に

「やかましい」

と土方は口だけ動かして応えた。





「神谷さん、貴女病み上がりでしょ?私、お手伝いしますよ」

と総司はセイに声をかけたが、セイはふるふると首を横に振った。

熱は下がってもまだ喉の調子は悪いようである。





『昨日、副長に御迷惑をおかけしましたから。今日はその御詫びです。鬼に借りをつくっては後が怖いもの』



おどけて肩をすくめる。







「神谷、とっとと総司を外に出せ」

「あら。やっぱり、こんなお姿は見られたくありませんか?」

「当たり前だ」

「いいではありませんか。平隊士ではなく他でもない気心しれた沖田先生なのですから」

「奴だから嫌なんだ。あることないこと絶対左之あたりに言って、昼には屯所中に俺の失態が響き渡る」

「大丈夫ですって。沖田先生は副長が嫌がるようなことはなさいませんって」

「いや、信用できん」

「もう、副長ってば頑固なんだから」





土方とセイは口だけで無言で会話しているが、端からみれば何を話しているのかさっぱり分からない。



歯がゆくなった総司が 「お二人とも、何を話されているのでか?」と問いかけると、





『てめぇは、とっとと出てゆけ!』

『副長が、沖田先生のお見舞いがとても嬉しいっておっしゃっています』





と二人仲良く懐紙をバンと見せた。

あまりの息のぴったりさに総司は笑うものの、妙に居心地が悪くなり立ち上がった。



「では、私は巡察があるのでこれで。帰りに美味しい飴でも買ってきますよ」

セイは喜び、土方はしっしと手を追いやるようにふっている。

そんな二人を後にして部屋を出た。





「二人は風邪を引きましたけれど、私はどうも別の病にかかったようですね・・・・・・」

総司は何故かもやもやする胸をぎゅっと押さえた。

この気持ちは何ていうのか。

もしかしたら、草津の湯でも治せない病なのか。





「風邪は万病の元」という言葉はこんな時にも使うのかしらと総司は巡察へ向かった。





キリ番「7777」番を踏んでくださった月子様への贈り物です。

リクエスト内容は、「酷い風邪を引いたセイたんを看病する石田散薬の末っ子(甘甘)」でした。

リクして頂いてから、お品を届けるまでにお時間をかなり頂いてしまいごめんなさい<(_ _)>

風邪ネタはわりとネットサーフィンしていると拝見するお品でして、拝読するたびに「おおvv」と頭の上にお花が咲くのですが、 似たような展開では面白みに欠けるかしらと思って、あれこれどうしようか楽しく悩みましたvv

妄想展開としましては

「風邪ネタ」→「風邪は万病の元」→「ということは恋の病も引くかもvv」→「ここは総司をからませよう」 →「悋気総司出現」→「でも、やっぱり歳セイとして甘甘風味に仕上げたいなぁ」→「風邪で声が出なくなる」→ 「声に出さなくても通じる二人」→「以心伝心vv」

と相成りました(笑)
そして、闇妄想としまして「声が出なければ二人で何をしても分からないわねvv」→「うふふふふvv」 →「・・・・・・(以下自粛)vv」

があったことは内緒ですv

私自身風邪といいますか熱は季節に関係なく良く出るので、その辛さはしみじみと感じているのですが、 やはり病気になったら心細くなります。
用も無いのに、電話してみたり(^^ゞ


あっ、また妄想が浮かんできました。
「セイちゃん熱が出る」→「心細くなる」→「歳に甘える」→「歳、戸惑いながらも応じる」→「・・・・・・(以下自粛)vv」


風邪ネタって本当に奥が深いですね。
如何様にも展開させられるもの。

今回のお品は歳とセイちゃんがちょっと意識しだしたという感じです。
互いのお布団を偶然とはいえ、寝てみたりvv

妄想熱にうかされながら、書いたお品ですが、月子さんが喜んでくださると嬉しく思います(^^ゞ
この度は、リクしてくださり、どうも有難う御座いましたvv