深夜にこの部屋にだけ明りが灯っている。
セイは医学書を読みながら主である土方が仕事を終えるのを待っていた。
先に休めと言われたが、はいそれではと小姓の自分が休めるわけでもなく。
かといって、小姓の自分が手伝えるような仕事はなく。
ただこうして土方の仕事が少しでも早く終わるようにと月を見上げながら思うことしか出来ない。
小姓になってから、土方の背中を幾度も否、常に見続けているけれども、
いつ見ても思うのは、広いということと寂しそうということ。
男の背中が広いのは、それに似合うだけの物を背負うからだと誰かが言っていた。
背負いすぎて、つぶれそうなほど抱え込んでいる目前の男。
実際に背に触れてみると、それ程頑丈なつくりでもないのだが、こうして離れてみると
やはり、その背中は広い。
いつも背筋を正し仕事に取り組んでいる姿を見ていると、壊れないかしらと時折心配になる。
そして、その背中は寂しそうでもあった。
黒い羽織ばかり纏っているからかもしれないけれど、どうしてだか寂しそうに思えるのだ。
自分が小姓になる前は、ずっと一人でこうして夜遅くまで起きて筆を走らせていたのだと
思うと、尚更寂しそうに見えてくる。
自分に出来ることは限られており、こうして待つことしか出来ない間はいつもその背中に話しかけている。
「無理していませんか?」
「何か、お手伝いできることはありませんか?」
近藤や土方が苦労して漸く気付き上げた基盤を背負う為にこの広い背中はあり、
近藤の為に鬼になると覚悟した時からこの寂しい背中はある。
ふと、自分の背中には何が背負えるのだろうと思った。
コトリ。
筆を硯に置き、土方がくるりと振り向いた。
「終わった」
肩を回しながらそう告げる土方に、
「お疲れさまでした」
と頭を下げる。
寝巻きを渡し、土方が着替えている間に布団を敷く。
「ごゆるりとお休みなされませ」
脱がれた衣を片付け、布団の上で座っている土方に声をかける。
大きな伸びをする様子を見ていたら、何故だか急にその背中に触れたくなった。
「副長」
近付き、土方と向かい合わせになるように背を合わせる。
「神谷?」
こちらに振り向こうとする土方に「どうかしばらくこのままで」と制し、
ちっぽけな自分の背中と広くて寂しい背中をくっつけた。
少しでもこの人の為に背負えるものがあるのなら・・・・・・。
目を閉じて強く想う。
「神谷?」
戸惑うような二度目の声にすっと背中を離した。
「お疲れのところ、ごめんなさい。それでは、今度こそお休みなさい」
行灯に近付き、息をふきかけると部屋に闇が訪れた。
土方が布団に横たえる音がし、そしてしばらくすると寝息が聞こえてきた。
セイは広く寂しい背中は触れてみると暖かだったことが嬉しくて、
自身も横になった。
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