お年玉







「明けましておめでとうございます」





セイは平伏して目の前の男に挨拶をした。

男は一張羅の羽織を身にまとい、いつもと同じように筆を休む暇なく動かしている。

「あぁ」

短くそう応えると、土方は机の方に体を向ける。





「元旦だというのに、今日もお仕事がお忙しいのですか?」

お茶を差し出すセイに

「見りゃぁ分かるだろ」

と愛想もなく返される。

セイは苦笑すると部屋を出てゆかずにじっと土方の背中を見ていた。

「おい、いつまでそこにいるつもりだ。待っていてもお年玉はやらんぞ」

からかうように言う土方にセイは笑みを濃くした。

「それは残念です。では逆に不肖私が副長にお年玉を差し上げるというのは如何でしょうか」

悪戯っ子のような表情のセイは言外に少し外へ行きませんかと誘っている。

土方はしばらく思案顔をしていたが、筆を硯に置いた。

どうしても今日中に仕上げなければならぬ仕事はなく、今日ぐらい休んでもよかろう。

それにセイの様子からして何かをたくらんでいるのだろう。

セイが少し上目遣いをしながらも口角を上げているこの表情は、悪巧みをしているときの表情である。

「ほほう。それは楽しみなことだ。どれそれではお前からのお年玉をもらおうか」

腰を上げて大小を腰に差す土方はセイににやりと返した。





※ ※ ※




外にでた土方はある場所からセイに目を瞑るよう指示された。

「それでは、副長。ここから先は目をつむっていて下さいませ。その方が楽しみが増します故」

怪しむ土方にセイは早く目を閉じてと言う。

視界には一面真っ白の雪景色。

足元は良い方でない。



「大丈夫です。私が御案内致しますので」

目を閉じた土方の手にひんやりと小さな手が乗せられる。

セイが先を歩き雪を踏み固めてくれているのか、歩きやすい。

「まだですよ。まだ目は開けてはいけませんよ」



子供のようにはしゃいでいるセイの声が可愛らしく、ついつい土方はからかってみたくなる。

「もう、いいだろう。目を開けるぞ」

そういうと、予想通り 「駄目駄目。駄目ですってば。楽しみが半減してしまいます。絶対駄目ですからね」 とセイはむきになる。

「いいじゃねぇか」

と目を開けようとすると、 背後に回ったセイが後ろから目隠しをする。

小さなひんやりとした手がどこかくすぐったい。



「駄目ったら、駄目です」



しかし、土方はそっと目を開けてみた。

セイの指の間からかすかに明りが漏れている。



「絶対駄目ですからね」

怒った様な泣いているような声をするセイに土方はそっと優しく笑い目を閉じた。



「ったく、分かったから。早く案内しろ」

その声にセイの手は離れていった。

もう少し、目隠し状態を味わいたかったと密かに思う。



「もうすぐです。あともうすぐ」



周りに誰もいないのか、しんと静まる元旦の朝。

二人が踏みしめる雪の音だけがザックザックと響き渡る。



「着きました。副長へのお年玉です」



目を明けるとそこには一面の雪野原。

雪化粧した山々と野原とそしてそこに存在するのはただ二人。

それは、感嘆をもらしてしまうほどの真っ白な世界だった。

「えへへ、副長、こういう景色が好みかしらと思いまして」

ここの場所は誰にも内緒ですよ」とセイは口に指を当てる。

「それからですね、これはお年玉のおまけです」

土方がセイの声をした方に振り返ると、大きな雪だるまが一つ。

頭に角をはやしているその雪ダルマの手には「鬼だるま」と綴られている。

よく見ると雪ダルマに三つ巴の紋が描かれていた。



昨日にでも一人で作ったのだろう。

雪ダルマの背丈は丁度セイと同じぐらいだった。



「豊宝宗匠、是非、新年の一句を御詠みくださいませ」

からかうようにいうセイに土方は雪をなげつけた。

「冷た〜い!っもう、やりましたね」

「礼に俺からもお前に『おとし玉』をやったんだ。有難く思え」



睨みつけるセイに土方は呵呵大笑する。

雪が太陽に照らされ反射する様はげに美しく、言葉どおりの銀世界だった。

雪を払っているセイの元へ近寄り、尚も睨みつけているセイに土方はそっと唇を落とした。

驚くセイに土方はにやりと笑う。

「大人のお年玉だ。童にはまだ早かったか」

真っ赤になるセイに、土方は笑みをのせる。





穢れる仕事ばかりしている自分に、穢れなき雪、それも一面の銀世界を見せたセイの本心は、きっと少しでも心を安らげるようにというものであろう。

心が洗われるというのはこういうことなのだろうか。

元旦からいいものを見せてもらった。

いつ命を落とすか分からぬ身なれど、願わくば来年もこの場に二人で訪れたい。

自然と笑みがこぼれた。



そんな己の姿にセイは嬉しそうに笑った。

「副長の笑い顔が見られたことが私の一番のお年玉です」と。





もう少し、もう少しこの場にいてもかまわないだろう。

もう少し、もう少し鬼の仮面を外してもかまわないだろう。



土方は童心に戻ったように、雪布団にねそべった。







お正月に普段御世話になっている方々にお送りしたお品です。

ほのぼの風味で仕上げてみました。

真っ白な雪で一面が覆われている地面が朝日に照り返されきらきらしているのはとても綺麗ですよね。

私自身雪を見ると、即席ちび雪だるまを作ってみたくなるので、セイちゃんに鬼だるまをつくってもらいました(^^ゞ

鬼だるま、一度挑戦してみたいです(笑)