賭けをした。
一人で出来る簡単な賭け。
鼻緒から足指を抜き、思いっきり青空に投げる。
「表」だったら「怒っている」
「裏」だったら「許してくれる」
願いと希望を込めて天に舞った下駄はカランと音を立てる。
結果に納得が行かない。
落ちた下駄の傍に咲いていた小さな花をひとつまみ、
花びら一枚とっては息を吹きかけ飛ばしてゆく。
「怒っている」「許してくれる」「怒っている」「許してくれる」・・・・・・。
願いと期待を込めて地に落ちてゆく花びらはふわりと風に乗る。
何度しても結果は同じ。
色々な花を試したものの、最後は必ず「怒っている」
何度もするようでは賭けではないとは思いつつも、望んでいる結果が出るまで花を摘んでしまう。
朝から機嫌が悪いなぁとは思っていた。
いつにも増して口をへの字にして、眉間のしわはくっきり三本。
廊下で擦れ違っても目線も合わさない。
いつもはにやりとどこか意地悪げに笑ってくるのに。
何が原因でそうなったのか色々考えてみたけれど身に覚えがありすぎて、ますます困ってしまう。
昨日、沖田先生に誘われお団子屋さんへ二人で行ったのがいけなかったのかしら。
昨夜、さりげなく寄ってきた副長をこれまたさりげなくかわして一番隊の部屋で寝たのがいけなかったのかしら。
廊下で永倉先生と原田先生と一緒に「鬼副長」をからかっていたのがいけなかったのかしら。
齋藤先生に刀の目利きのことを教わっていて、頼まれていたお茶のことをすっかり忘れてしまったのがいけなかったのかしら。
それとも・・・・・・。
目を静かに閉じて深呼吸してみる。
全身の力を抜いて、頭の中もからっぽにして。
もう一度、下駄を放り投げてみた。
ゆっくりと目を開く。
下駄は・・・・・・なくなっていた。
あれ?
そんなに遠くに投げてしまったのかしらと片足で跳びながら辺りを見渡すも青い鼻緒の下駄は見つからない。
「探し物はここだ」
低い声に振り返ると、下駄は声の主にすぐ傍に落ちていた。
「危ねぇな。何か含む所があって俺にあてようとしたんじゃねぇだろうな」
副長は腕組みしながらゆっくりと近付いてきた。
また怒られるかしら。
またどなられるかしら。
また仲直りするのに時間がかかるのかしら。
副長が私の目の前まで来て止まった。
私は目を反らし俯く。
「俺に何か不満があるのか」
「不満などありません。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「ただ、そんなに恐い目で睨まれると畏縮してしまい、謝る事が出来ませぬ」
「・・・・・・茶が飲みたい」
「?」
「茶が飲みたいと言っている。今すぐ茶を淹れて持って来い」
それだけいうと副長はスタスタともと来た道を戻ってゆく。
言外に「御茶を持ってきたら、許してやろう」と聴こえた。
私は慌てて副長の背中を追いかけてゆく。
さっき放りなげた下駄は裏を向いていた。
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