流れ







追うていた者がいつの間にか追われる身となる。

追われていた者がいつの間にか追う身となる。









歴史の流れが変わる時、風向きも変わる。

それを直に感じるのは皮肉にも歴史の行く先が見えず渦中にてあがいている者達。















「神谷、いいか。俺がこれから言うことを暗記しろ」





紙に書いた物は形として残る。

燃やす暇さえなかった。



否、それ以前に、ここには十分な紙や筆はない。



セイは一言一句もらすまいと大きな黒眼をしゃんと開けて土方を見る。

疲れた、眠いは言ってられない。



復唱し確認するとすぐ様他部署へ伝達に向かう。







戦は体力ではない、精神力だ





誰かが言っていた言葉が浮かぶ。







生と死との狭間を過す日々。

一歩右にずれていれば被弾し、一歩左にずれていれば斬られる。

月役はとうに止まってしまっていた。

わずらわしいとばかり思っていた女の躰にも便利なことがあるものだと初めて思った。





伝達の帰りに、身軽さとその男に見えぬ躰区を活かして斥候に身をうつす。

煙の上がっている位置、城との方角、風の向き、そして、血のにおい。



すべて土方が教えてくれたことだ。

戦では地の利を先に制し、冷静に現状を把握した方が有利だと。

目は悪くない。

高い木にのぼり丘下の全体を見渡す。





記憶するときは絵で記憶するんだ。





これも土方から教わった。

文章で覚えたものは記憶が長く続かない。

絵でありのままを瞳に刻み込むんだと。





視界の隅から隅までみやりセイはさっと身をひるがえす。

そして、走る。

土方のもとへ。



走りながら策を練る。

あの平地に誘い出させば、集中砲火を浴びせられるのではないか。

あの丘を先にとられてしまったら厄介だ。





森を抜け、林をぬけ漸く自陣が見えてきた。



最初に土方がこちらに気付いた。

土方も眼がいい。

だが、椅子から腰を浮かしたそのままの姿勢でとまる。





不思議に思い、横に視線を向かわせると木陰に人影





・・・・・・つけられたか





セイは走りながらシャッと刀を抜き、斬りつける。

眉間から血を流し、男は倒れる。



とどめに心の臓を突く。

京の頃はここまでしなかった。

だが、ここでは情報の量が戦に左右するのだ。

万が一男が敵陣に戻られでもしたら厄介になる。







「土方副長、神谷清三郎帰還しました」





顔についた返り血を拭い、報告をする。



土方は一通り聞いた後、他の隊士に指示をだし早速行動に移った。





小川の水で血を洗い流すセイに土方が近付く。





「よく、気がついたな」



「副長の動きが少し止まったので。でも、それまでは少しも気付きませんでした」



「自分が走っている時は、相手の走る音は案外気付かぬものさ」



「ごめんなさい。つけられていることに気付かなくて」



「自分でケリつけたんならいいさ」



ふるふると顔を振って手ぬぐいで拭うと男が真剣な顔をしていた。



何を言い出そうとしているのか、セイには分かる。

けれど男がそれを口にできないことも、セイにはよく分かっていた。





「さぁ、参りましょう。隊士達が土方副長をお待ちです」





男と契ったのは京を追われる身となってからだ。

セイは少なくともそこに恋や愛などの感情はないと思っている。

ただ、同士が心の同士が欲しかったのだろうと、そう思っている。



深い男女の仲になって、それゆえに女だからお前はこれ以上一緒に来るなと言われるのがセイは怖い。

だから、土方にはあくまで「神谷」として接する。



土方はそれだけでは不満そうだが、何も言わない。

それでいい。

それでいいと思っている。





躰は女でも心は男でありたい。





女がそう言うと男は苦笑した。







場所は江戸から箱館へ行くまでのことを想定してお品を仕上げました。

こんな感じの武士らしいセイちゃんが好きだったりします。

お読みくださり、どうも有難うございました(*^^)