止まらぬ胸騒ぎが、何かを暗示しているようで胸苦しい。
こういう時の勘は、残念ながら外れたことがない。
土方は真っ直ぐセイの元へと向かっていた。
セイには行きと帰りの道を指示してある。
故に、こうして自分が屯所から辿ってゆけば出会うはずだが、一向にその姿が見えない。
その事が更に不安を煽らせた。
屯所から総司達がいる宿までの区間には、要所要所に平助率いる八番隊を分散させ万一に備えている。
が、肝心の宿から寺までは配置出来ずにいた。
一つは、相手を刺激するのを避ける為。
何かの拍子に感づかれるとも分からない。
一つは、そこが京都見回り組み手中の為。
見回り組みは新撰組のことを一部の者を除いて良く思ってはいない。
身分の低い者が集まった新撰組は、最初こそあしらわれていたが、池田屋事件からこっち驍名をはせ、今や欠かせぬ存在となっている。それがれっきとした幕臣が集まった見回り組みからすると気に食わないのだろうと土方は思っている。別に昵懇の間柄になろうとは思っていないが、隊士に気付き、縄張り荒らしだといざこざが起こるのは面白くない。
事を起こすには、来るべき時が来るまで水面下で行うのが得策というものだ。
従って、その区間はセイの力量にまかす事にしたのだが、矢張り配置すべきだった。一番危険な区域ではないか。
今更ながら、悔やまれる。
温存していた十番隊をローラー作戦のごとく自分とは別道で寺へ向かわせ、つい先程総司達に作戦変更を伝える文を目明しに頼んだ。別道で行かせたのは,セイが何者かに追われ、指定したのとは違う道で逃げているかもしれないとふんでのことだ。
会津藩には山南の文を斉藤に持たせている。
多少の事は適宜な処置をしてくれるだろう。
今まで、何人もの女と巡り合ったが、自分をここまで心配させ夢中にさせる女はいなかった。
夢中になるのは、いつも女の方。自分はといえば、数多の女と付き合い、それをまんざらでもない気持ちで楽しんでいた。一人の女に夢中になるのは、自分が負けたみたいで嫌だった。
が、セイと出会ってから変わった。
いつの間にか夢中になっていたのは、己の方だった。
正直悔しさを感じるが、案外男と女とはそういうものかもしれない。
土方は自嘲めいた笑みをさっと浮かべ、昔行商で鍛えた健脚に任せて先を急いだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
夕焼けに変わり、夜の帳が徐々に下ろされてくる。
普段人気のない寂れた境内には、女の声と三人の男の声が響いていた。
「うちは、ほんまに何も知りまへん。」
せまりよる男達に女は後退るが、トンっと背中に木が当たり、逃げ道を閉ざされる。
余裕の笑みを浮かべる男達に対し、セイは頭の中で必死に策を練っていた。
・・・どうする。いっそ、こちらから攻撃をしかけてみるか・・・。否、相手の力量が分からない上にこちらの武器は懐剣一つ。加えて、女物の着物で動きづらいときている。では、このまま何も知らぬふりを続けて相手が諦めるのを待つか・・・。無理・・・だな。どちらにしろ、ここで私がこいつらに屈したら、山崎さんが命を賭けて集めた情報が全部おじゃんになる。それだけは、絶対嫌。出来れば最後までただの町娘で事を済ましたかったけれども、もう限界かな。「新撰組」を匂わさずに動けば、副長の策には背かないだろう。・・・どこまでやれるか分からないけれども、ここはやるしかない!!
セイはじっと相手を睨み付け、懐刀の短い間合いを稼ぐべく男達がぎりぎりまで自分に近付くのを待った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「神谷さん、ちょっと遅くないですか?」
宿では、先程から総司が立ったり座ったりを繰り返していた。
それに引き替え、永倉は片肘をついてずっと往来を見やっている。
自分はいてもたってもいられないのに,悠長に構えている永倉に苛立ちを感じて仕方がない。
「永倉さん!何か・・・何か,神谷さんの身にあったのでしょうか!!」
胸倉を揺さぶる総司に一瞥を与えた永倉は、視線を外へと元に戻した。
「・・・多分,大丈夫だろうよ。」
「『多分』じゃだめなんです!『絶対』じゃなきゃ!永倉さんは心配じゃないんですか?どうしてそんなに落ち着いていられるのです!!」
普段怒りを露にせぬ総司の叫びにも似た声に周りの平隊士達は肩をすくませる。
「・・・信じているからさ。」
ぽつりとしかしはっきりと放たれた言葉は総司のはやる心を少し静めた。
「もちろん,私だって神谷さんを信じていますよ。ですが・・・。」
「・・・もあるが、土方さんをだ。」
永倉はゆっくりと総司の方へ体を向ける。
「お前の気持ちを裏切り悲しませた事を一度だってあの人がした事があるか?」
「・・・・・・。」
「そういうことだ。さっきな、誰かさんが砂埃を上げてここを通って行ったぜ。責任感が強く,勘も働くあの人の事だ。気になったんだろうよ。」
「・・・はい。」
「なぁ,総司。お前は近藤さんや土方さんを信じているから京へ上ったんだろ?信じているから,今の斬ったはったの日々を送っているんだろ?・・・俺だって同じさ。こんな事俺の口から言うより,余程お前のほうが分かっているだろうに。」
総司にというより、この場にいる全員に永倉は尚も言い続ける。
「新撰組は,烏合の衆。それをまとめるタガは局中法度。だがな、俺はタガは『信頼』だと思っている。生まれも育ちも考えも違う者が一堂に会している。中には素性もはっきせぬ者だって居る。そんな新撰組の唯一の拠り所は『信頼』しかねぇじゃねぇか。局中法度を見てみなよ。武士として至極当たり前の事が書かれているじゃねぇか。それすらもできねぇような輩は信頼できねぇと作った張本人は思っているのさ。」
日々、局中法度をただの厳しい鉄の掟としか見てこなかった平隊士達は、ハッと目を見開く。中には己の思慮の浅はかさを恥じて俯く者もいる。
「その張本人は誰よりも自分に厳しく鞭を打っているんだ。だから鬼副長なんだよ。誰だっててめぇのことを鬼と呼ばれていい気はしねぇ。だが、あの人はむしろそれを喜んでいる。仮に副長を気に入らねぇと思っても、誰も文句言えねぇだろ?非の打ち所がねぇからな。」
・・・信頼を重んじる土方が,総司の信頼を裏切ることはしないのだと・・・・。
そう言う永倉に総司は頭を下げるが、「詫びなら本人にしろよ。」と鼻をすすった手でポンと頭の上に温かい手を乗せられた。
「お前は、どうも神谷が絡むとらしくなくなるな。まっ、分からないでもないけどよ。」
にやっとからかう永倉に総司は落ち着きを取り戻した。
「昔の土方さんを知っている俺達からすりゃ、『鬼副長』の土方さん程可愛いもんはねぇよな?」
「はい。」
笑顔で返す総司。
照れ屋で不器用でいつもムス〜っとしていて。
内にある優しさを鬼副長という面をかぶって肩肘張っている。
そんな自分が分かる人には理解されていると言うことに気付いていない。
何とも彼らしい事である。
それを永倉は言ったのだが、一部の隊士達は誤解したらしい。
今の鬼副長が可愛いというのなら,昔はもっと怖かったということかと。
おずおずと一人の平隊士が声をかけた。
「先生方・・。昔の土方副長ってどんなお人だったのですか?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セイはじっと三人の男達が自分に近付くのを待っていた。
懐剣の間合いまで後もう少し。
早鐘のようになる胸とは別に頭は冷静さを保っていた。
まともに勝負をしてもこの格好では勝てぬ。
まずはこの場から逃げることを優先。
一の太刀で手前の男の足を斬り,続いて横の男の急所をねらう。
三人目には、鳩尾(みぞおち)に入れるか・・・。
あと数歩で手前の男が間合いに入る。
・ ・・一,二の三!!!
セイは懐から刀を取り出し、一人目の男に斬りかかる。
ザッ!
予定通り男の右腿を斬りつけ動きを止めさせる。
「ぐぁっ!」
二人目の男が、くの字に体を曲げたこの男を庇うように横に押しのけ,鯉口を切る。
刀を抜かれては、こちらの分が更に悪くなる。
「させるか!!」
セイは二人目の男の急所を足で蹴り上げ・・・るはずだった。
もう少しで、足が届くという所で、いきなり肩をグイっと後ろに引っ張られるのを感じた。
「なっ!」
後ろからの力に驚きセイの体中の力が弛んだ刹那、二の腕を背後からつかまれ、軽いセイの体はほんのばかり宙に浮く。
その瞬間。
「ぐはっ!」
頭に鋭い痛みが走った。くらくらする。
セイの突然の攻撃に三人目の男がいち早くセイの後ろ手に回り、木の後ろからセイ
を引き寄せたのだ。
ちょうどその時、セイは二人目の男を蹴るべく片足を地から離しており不安定だった。
力のつりあいが崩されたセイは反動により背後の木に頭を強打したというわけだ。
木に縛り付けられるような形でセイは木の後ろから手首を三人目の男につかまれる。
「おい、お前はあの方に事を知らせに行け!」
「分かった。」
ぼんやりと頭の中に男達のそんな男達の会話が聞こえ、足を怪我した男がびっこをしながら立ち去るのが視界に入った。あの歩き方からするに、血こそ出ていたが傷は思ったより浅いのだろう。
次第に視界と頭がはっきりとしてくる。
グイグイと力を入れて掴まれている手首も痛いが、それ以上に頭が痛い。
フルフルと頭を横に振るセイに、二人目の男が顔を近付けさせた。
「やってくれるじゃねぇか,このアマ。」
セイの顎を持ち上げ、舐めまわすような視線を送る。
「はけ!お前、あの乞食から何を得た。」
後ろの男が更に力を入れ、セイの手を握り締める。
「はいたら自由になれるんだぜ。」
にたっと薄汚い笑いをする目の前の男にセイはプッと唾をはいた。
「なかなか強情な娘さんだ。だが、女には女のはかせかたというのがある。じゃじゃ馬っていうのも悪くはねぇな。」
男は、口を吸い上げる。
ガリッ!
唇を噛んだセイの反抗に男はバシっと頬をたたいた。
セイの白い頬がしだいに朱に染まってゆく。
「気の強いのは大いに結構。だがな、あきらめも肝心という言葉を忠告するぜ。」
男は再度急所を狙われないようセイの両足の中に自分の両足を入れ、首筋に舌をはわす。
身を捩らす事を試みるが、後ろの男に手を掴まれているためどうにもならない。
「俺からも忠告しとこう。あがけばあがく程、男はその気になるものだ。」
後ろからクッという笑いとともに声が聞こえてくる。
・ ・・セイはこの時不思議にも,女としての怖さは感じられなかった。
あるのは、山崎からもらった紙包みを男達に盗られぬようにせねばという思いただ一つ。紙包みを入れた財布は懐ではなく、帯と着物との間にいれてある。スリに合っても盗られぬようにと工夫したのだ。しかし、このままでは時間の問題である。男達に反抗した時点で、自分が山崎と何らかの関わりを持っているということを露呈したようなものだ。何か・・・何か・・・良い策は!!どうしたらいい!どうすればよい!!
目を閉じ必死に頭を回すセイの耳に聞きなれた声が入ってきた。
「なら、俺からは、女子はもっと丁重に扱うべきだと忠告するぜ。」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セイが宿に着く予定の時刻はとっくに過ぎ、月が闇夜を照らしている。
総司は正座して、ただじっと、じっと目の前の畳を見ていた。
永倉は向かい合いようにあぐらをかき、腕を組み目を閉じている。
沈黙の痛さに、隊士達は部屋の隅の方に固まってやはり無言でいた。
その均衡を破ったのは、総司だった。
横に置いてある刀を取り、立ち上がる。
外に出るべく襖に手をかけたとき、背後から低い声がかかった。
「・・・総司。」
永倉はゆっくりと目を開いて、総司を見上げる。
「今のお前は、一番隊組長だ。」
勝手に動くなとの窘めの言葉。
それが分からぬ総司でもない。
だが、総司は襖から手を離さなかった。
互いに目で会話をする総司と二番隊組長の睨み合いが続いた。
いつまで、そうしていたのだろう。その場にいた隊士達にはとても長く感じられた。
最初に目をそらしたのは総司だった。
襖を開け外へ出ようとする。それを止めようと永倉が腰を挙げた時、階下から目明しが上がってきた。
「土方様に頼まれました。これを急ぎ、沖田様と永倉様にお渡しするようにと。」
バッと乱暴にその文を目明しから取り上げ、急ぎ目を通す。
「作戦変更。以下の二つの場所に移動せよ。くれぐれも勝手なことはせぬよう。」
分かりやすい地図が書かれているその文は、間違いなく土方のもの。
総司の横から文を見る永倉は、読み終えると同時に忍び笑いをもらした。
「こんな時に,不謹慎ですよ。」
何が可笑しいのだと眉をしかめる総司の肩をポンとたたき、隊士達に命令を下す永倉。
「ほら、行くぜ。総司。」
階下へ行こうとする永倉を尚もしかめっ面で見ていた総司に気配で気づいたのだろう。永倉が途中で振り返った。
「気付かねぇのか?最後の文章。ありゃぁ、他の誰でもねぇ。総司,お前への言伝だ。」
・・・・・・俺も副長もだてに長いことお前の兄貴分はしてねぇってことさ・・・・・・。
そう言って、笑いながら下へ降りる永倉の後姿に総司は苦笑をもらした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「なら、俺からは女子はもっと丁重に扱うべきだと忠告するぜ。」
その声に男達は動きを止め,声の主を見た。
逆光故顔はよく見えないが、月代はなく着流しを着ている。
刀を差していないところからすると,町人といったところか。
「誰だ、てめぇ。」
セイの前にいる男は目前の楽しみを邪魔にされたのが気に食わず、抜き身を拝ませる。
しかしそんな様子に驚きもせず着流しの男は、歩み寄ってきた。
得体も知れぬ威圧感に男は、半歩下がる。
「人に名を尋ねるときは、まず己から名乗る。そう、教えられなかったか?」
着流しの男は、目の前の男の刀をちらっと見て間合いの一歩後ろで足を止めた。
「・・・何のようだ。正義面しやがって。助けにきたのはいいがな、てめぇ丸腰じゃねぇか。」
「お楽しみの所邪魔して悪かったが、そいつは俺の女なんでね。見てみぬふりは出来ねぇってわけだ。」
「・・・けっ、嘘ほざきやがって。」
「嘘・・・だと?」
「女が京言葉で、てめえは江戸の言葉。釣りあわねぇじゃねぇか。大方,偶然通りすがり女を助けにきた。そんなところだろ?」
「ふん。江戸から行商で上方へきて、そこでその女と出会った。『東男に京女』ってきちんと釣り合ってるぜ。そいつは、気立てはよいんだが、癇癪もちが玉に傷でな。今朝も島原へ行った俺を怒って家を出て行きやがった。ま、悋気されるってことは、それだけ想ってくれているということだから,悪い気はしねぇがよ。何なら,俺達の馴れ初め話も聞くかい。」
「てめぇ、なめやがって!!」
挑発にのり力任せに突進し突きを繰り出す男を目前で着流しの男はするりと横へ交わす。
次いで男の手首に手刀を食らわせ,刀を奪い,背中に鋭い太刀をいれた。
痛さと苦しさで地に這いもがいている男を上から冷ややかに見やり踏み付ける。
「俺の知り合いに、突きを得意とする奴がいてな。そいつは瞬く間に三度の突きを繰り出すんだ。お前のなんか、突きでも何でもねぇ。・・・・・・さてと。」
土方は視線をセイの方へ移す。否、正確にはセイの後ろにいる男に対して。
「来るな。」
悠然とこちらへ歩み寄る土方に焦燥感を否応なく覚え,男は上ずった声を出し牽制する。
「近付くとこいつはただじゃおかねぇぞ。」
そういうや否や、素早くセイを後ろから抱え込んだ。
自身の腕をセイの首にあて、体に密着させる。
背の低いセイは足が地から離れるか離れないかのギリギリの状態になり、その事が息苦しさに輪をかけた。
普段のセイならすばしっこさを活かして男が自分の手を離した瞬間に逃げ出す事が出来ただろうが、頭を打ち付けられ、手を強く握られたことによって、その一瞬の隙をセイは上手く活用出来なかった。長い緊張感に伴う疲れがあったのかもしれない。
土方の手を煩わせることになった現状に自分に悔しさを感じる。
「女を人質にするのか。」
土方の蔑む口調に男は,更に腕に力を入れることで問われた答えを表す。
「くっ・・・。」
苦しげな声が男の腕の中から漏れた。
「その刀を放れ。」
しばらく迷ってから刀を手放そうとする土方の目に「だめ」と口を動かしているセイの姿が入る。
手放すなと言われても,この状況では他にどうしようもない。
追い詰められて頭に熱が上っている奴に下手に反抗しては相手がどう動くか分からない。
「窮鼠猫を噛む」の例えもある。
土方は要求どおり刀を男の方へと投げた。
「言われたとおりにしてやったんだ。いい加減、そいつを放してやったらどうだい。言っただろ、女子はもっと丁重に扱うべきだと。」
軽い口調に似合わないドスを聞かせた声を出す土方をセイは薄目を開けて見ていた。
・ ・・このままでは、副長まで・・・。何とかしなきゃ!どうする?どうすれば良い?
懐剣も無い,刀も無い、何も出来ない!もっと頭を回すんだ。きっと,何か方法はある。・・・頭・・・・、そうだ、まだ手はある!!
セイは深呼吸すると、全身の力をスッと抜き頭を垂れさせた。
今まで弱い力ながらも反抗していた女が突如ダランとした事に男達は驚く。
一人は、女がびくともしなくなった事について。「死」とういう言葉が否応無くかすめる。
一人は,女が人質の役目をなさなくなった事について。人質は生きているからこそ意味があるのだ。
「おいっ!おいっ!!」
腕の中の女を揺らすが反応しない。
焦った土方が男から女を奪い返そうと動いたとき・・・・・・
女は舞った。
反動をつけて男の弁慶の泣き所をを下駄で押さえつけるようにして痛めつけ,男がひるんだ隙に腕から飛び降りる。着地と同時に髪の毛から笄を抜き取り,男ののど笛へ向かって跳躍。剣舞のようなその動きは、土方にはとてもゆっくりとして目に映った。
「ぐはっ!」
後ろの木にのど笛を中心にたたきつけられた男は、一瞬にして気を失う。
「ふぅ・・・。上手くいって良かった。」
そう言ってこちらを向くセイを土方は呆けた顔して見ていた。
目の前をヒラヒラと手を振られようやく我に返る。
「さっきの・・・死んだふり・・・だったのか?」
かすれた声にセイは笑って「ちゃんと足ありますよ。」と、自分の足を指差す。
土方は大きく息を吐き、ぎゅっとセイを抱きしめた。
「心配させやがって。・・・・・・大丈夫か?」
「そんな事より、この男に『あの方に事を知らせに行け』と言われ東へ行った男が一人います。足を斬ったのですが傷が浅かったらしく,存外しっかりとした足取りでしたから、そろそろ仲間を連れてこちらに来るかもしれません。すみません、しとめきれなくて。でも、山崎さんからの大切な預かり物は無事です。」
財布を手渡そうと土方の腕から距離を置こうとするが、抱きしめられる力を強められ、ままならない。
「『そんな事』じゃねぇだろうが!」
「『そんな事』ですよ。」
ケロリというセイに思わず土方は腕の力を弱め、視線を合わせる。
髪の乱れた様子が何とも艶かしい。
運良く自分が間に合ったから良かったものを。あのまま二人の男たちに痛めつけられていたら、どうするつもりだったというのか。いくらじゃじゃ馬でも女子は女子なのだ。セイの姿を見つけるまで,自分がどんな気持ちだったか。
睨み付ける土方に、セイが凛とした声で言葉を放つ。
「今の私は武士,神谷清三郎です。満足に任務が果たせず,挙句の果てにお手を煩わせてしまって自身の力の無さがつくづく嫌になります。申し訳ございませんでした。」
目を伏せ詫びるセイの姿に胸が痛む。
男達に囲まれ女子としての怖さもあっただろうに、それを億尾にも出さない。
己は武士だと言う彼女がとても果敢無くとても痛々しく見えるのは、自分がセイを武士としてではなく女子としてみているからなのだろうか。
土方は何も言わずに再度セイを抱きしめた。
一瞬ためらいの顔をみせたセイもそっと土方の背に手を伸ばす。
不意に男が女の顔を上へ向かせた。
そっと目を閉じるセイ。
男の手が顔に触れ、唇が重ねられ
・・・なかった。
訝しく思い目を開けるセイに聞こえてきたのは「それで,隠れているつもりか。」というドスの聞いた声。
敵か!と前の茂みに身構えるセイの目の前に現れたのは、他でもない原田だった。
「左之、いつからそこにいやがったんだ。」
「今,丁度ここに着いたところですよ。」
「ほう〜?」」
蹴りの一発も見舞わせてやりたいが、残念ながら今は作戦の途中。
「山崎は?」」
「あぁ、さっき会ってな。大阪に一端身を隠すだとよ。事の内容は全部紙に書いてあるそうだ。」
「そうか。」
・ ・・長人達も馬鹿ではない。密会の場所を変えたのだろう。これ以上,この件に突っ
込んでも,得る物はないか。後日再度山崎に働いてもらうか・・・。
土方は,今後のことについて頭をフル回転させる。
セイはかつらの乱れた髪の毛を整え、まだ痛みの残る後頭部をそっと触る。
痛みの割にはたんこぶ程度で,血は出てないみたいだ。
「よぉ,神谷。やっぱり女装が似合うなぁ。」
手を差し出す原田にセイは半歩下がるが、「おつかれさん。」と頭を優しく撫でられただ
けだった。いつものように、抱きついてくるのではとちょっと警戒した自分にいささか拍子抜けする。
「土方さん,腰のものは?」
「町人を装わなければならなかったんでな。部屋に置いてきた。」
「無茶するねぇ。でも、土方さんが着流しなんかで外に出るなんて日野の頃みてぇだな。」
土方は外出時紋の入った黒羽織に袴という出で立ちが多い。土方の顔は直接知らなくても、紋と顔の造作の特徴と黒羽織というキーワードさえあれば、新撰組副長土方歳三と分かってしまうだろう。襲われて斬りあうこと自体にためらいはないが、「新撰組」と言う事をちらつかせたくないのは当初の目的であるし、第一余計な事に時間を割きたくなかった。
今身に纏っているのは格子模様のある藍色のものである。そんな出で立ちを新鮮というような目つきでセイが長々と見てくるので、土方はどうも照れくさくなり意味もなく原田を小突き話題を変えた。
「お前の配下達はどうした?」
「そろそろ着くだろうよ。」
しばらく和んだ雰囲気が漂っていたこの場にさっと緊張が走った。
土方と原田が顔を見合わせ辺りを警戒する。
やや遅れてセイもその原因を理解した。
茂みの奥に複数の気。
十番隊の者達の気配ではないことは確かである。
先程の男が援軍を連れてきたのだろう。
「なぁ、ちぃ〜っとばかし暴れたくねぇか。」
ちらりと茂みの奥に視線をやり声をひそめる原田に
「・・・だな。あいつが無事な以上、猫をかぶる必要もなくなった。」
と土方も相槌を打つ。
「紙谷、あいつは何回手を振った?」
「五回です。」
ニヤっと口角を上げ懐紙に何かを書いて原田に渡す土方。
「それじゃ、俺達は先に新撰組の屯所に戻るからな。あとは頼んだぜ。」
「新撰組の屯所」という個所を心持ち声を大きくして言う。
途端,当然のごとく茂みの奥の気配が強まり、奴等が餌に食いついてきた事にほくそ笑む。
歩き出した土方が、原田とすれ違いざまそっとつぶやいた事に、茂みの奥の気配に気を取られていたセイは気付かなかった。
「奴等をひっぱるぞ。」
「承知。」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
宴の席が設けられているのだろうか、静かな夜道にどこからか三味線の音が聞こえてくる。
月の光により照らされた夜道を歩きながら、土方はセイにこれからの策を説明した。
土方の読みでは敵は五人。山崎の手の振った回数と同じである。
「五人なら原田先生率いる十番隊で十分ですね。」
「まぁな。だが、敵がよほど重要な話をあの料亭で交わしていたとしたらどうだ?後ろに大物もいることからみるとその可能性は大だ。池田屋の時みたいに大それたことを計画しているのかもしれねぇ。言っておくが、あの五人は気もろくに隠せない雑魚だぜ。雑魚を何匹釣っても面白くねぇし、こちらの狙いはもとよりあいつらじゃねぇ。もっと上にいる奴さ。俺の読みでは、五人のうち一人が上の奴を呼びに戻り,手馴れの者を連れて俺達のほうへ向かわせるってところだな。」
眉を寄せ状況を整理するセイ。
「考えても見ろよ。山崎からの情報を知っているのはこっちだぜ。つまり、俺達が屯所に帰るまでが勝負ということだ。屯所に帰るまでに俺達を消せば、『新撰組』には情報がいかねぇからな。加えて俺は今刀を持っていねぇ。奴等が襲うには絶好の機会ということさ。」
漸く土方の言わんとしているところが分かり、気を張り詰めるセイが可愛らしくクッと笑う。
「何が可笑しいんですか?いつもの副長なら天下無敵でも,今は刀を持っていらしゃらないんですよ!こっちの身にもなって下さいよ!私が副長をお守りせねばならないんだから。」
「お前が俺を守るというのか?」
フンと嫌味たらたらに鼻をならす土方に、セイはいたって真面目に答える。
「隊士が副長を守るのは当たり前でしょう?・・・それに副長に万が一の事があったら・・・悲しむ人がいますから。その人の為にも私が副長をお守りしなければ・・・。」
「誰の事だ?」
「そっ、そんなの局長に決まっているでしょ!」
顔を背けるセイを見ながら土方は心の中で言い返す。
嘘をつけ・・・、近藤さんではなく、総司だろと。
セイを女子と知り肌を合わせたことも幾度かある。
自分に抱かれても拒絶はしない。
当初、セイが自身の本当の気持ちに迷いながらも自分に身を任せる事に優越感にも似た気持ちがあった。迷いながらも身を任せると言う事は、少なからず自分は嫌われていないと思ったからだ。今は総司の方に気持ちが傾いていても、徐々に自分の方へ向けさせるといった自信すら正直あった。
が、何時まで経っても、自分には腕にいる時のセイの視線はいつもどこか虚ろで、どこかを遠く見ているように見えた。否,実際そうだった。
セイは完全に総司を忘れられないのだという事を。
自分に抱かれても拒絶はしないのは、惚れ直したからではなく、自分を傷つけない為に黙って抱かれているのではないかと。
皮肉なことにセイを抱けば抱くほど,その思いが確信に変わるのだ。
そういうセイのいじらしさが、憎くもあり,健気でもあり,儚くもあった。
男にはない女の優しさなのかもしれない。
セイの気持ちを知りながらも手放せずにいる自分が愚かといえば愚かだった。
セイが先程のように意識せぬうちに総司の事を思っている発言をすると良い気はしない。些細なことに悋気する自分が愚かだと分かっていても、大人気ないと知っていても、好きなものは好きなのだ。手放したくはない。
気まずい空気が二人の間を流れる。
最初に口を開いたのは沈黙に耐えられなくなったセイの方だった。
「敵が大勢こちらに向かったら、どうするんです?私はこの格好だし,副長だって武器をもっていないし・・・。」
「なに、手は打ってあるさ。宿屋にいた新八達を二手に分かれて潜伏させた。俺達が十分に引き付けた相手を挟み撃ちにして襲わせるのさ。」
総司達と言わずに新八達と言ったところに,土方の気持ちが垣間見れる。
いくら可愛い弟分であっても、今はその名を言いたくなかったのだ。
「そんなに上手く事が運べるでしょうか?」
「俺の言う事が、信用できねぇっていうのか?いい度胸だ。」
「男は度胸と申しますから。」
「女は愛嬌の間違いじゃねぇのか?」
「お言葉ですが,今の私は武士ですから!お間違いなく。」
すっかりいつもの掛け合いになってほっとしたのはセイよりも土方のほうだったかもしれない。
双方ともこの余韻に浸っていたかったが、背後の気配がそれを妨げた。
「・・・かかったな。」
やや遅れてその意味をセイは理解する。
「それも・・・大漁だぜ。」
何人いるかは分からないが、かなりの数であることはセイにも分かる。
「いいか、次の角を右に曲がり三軒目の店に身を寄せるぞ。」
「はい。」
「心配ねぇよ。読みどおりさ。」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「それにしても新撰組は度胸があるというか、向こう見ずというか・・・。」
斉藤から今回の作戦を山南の文と共に伝えられた容保は、笑みを浮かべながら言った。
「だが、余はそんな彼らが好きだ。のう,斉藤。」
「御意。」
「其方は・・・変わったな。」
夜空に輝く月を見上げながら言う主人の真意がつかめず、斉藤は言葉に詰まる。
それを感じた容保が斉藤に顔を上げるよう指示した。
「顔が穏やかになった。」
思わず手を顔にやる斉藤に容保は笑いながら更に言葉を続けた。
「昔の其方は安易に人を近づけぬような雰囲気があったが,今は何とも安らいだ感じがしておる。日々,命の取り合いをしていれば,自然と心が荒むというもの。・・・其方にとって,新撰組の仲間等は心の拠り所なのだな。」
其方の顔を見れば,新撰組の様子が大体分かると言う容保に斉藤は少し照れて俯いた。
真っ先にセイの顔が、次いで総司や原田・永倉・藤堂の三人組,そして局長,総長,副長の顔が浮かんでくる。
自分は,決して人付き合いの上手な方ではない。が、気付いたら彼らの輪の中に自分の居場所があった。特に自分を兄として慕うセイの笑顔に何度救われた気持ちになったかし
らない。
知らずうちに笑みを浮かべていたらしい。
「何を思っておる。余に詳しく話してみよ。」
あせる斉藤に
「良いではないか。隠密は主人には洩らさず事を報告するものぞ。」
そう茶目っ気たっぷりに言い、手を打って酒を持って来いと命令する容保に,斉藤が困惑したのは言うまでもない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おや、トシさん。今日は、えらいべっぴんを連れているじゃないかい。」
「おかみ、すまねぇが・・・。」
多目の金を渡す土方に「あいよ。」と二階の階段を指差す。
息もぴったりなこのやりとりにセイは驚いたが、おかみが京言葉でないことや土方を気安く「トシさん」と言い,新撰組に好意的なのにも驚いた。きっと,土方がここを何かと利用しているのだろう。もしかしたら、江戸の頃からの知り合いかもしれない。
そんなことを考えながら,土方に促され階段を上った。
このまま真っ直ぐ道を歩くと思われた二人が、急に角を曲がり姿を消したことに慌てたのは長人達である。
見逃してたまるかと急ぎ後を追いかける彼等に、立ちはだかる人影。
「新撰組二番隊組長、永倉新八!」
まさか、ここに待ち伏せられているとは思わなかった長人達は、目を見開き急ぎ鯉口を切る。
一部は、活路を見出そうと反対側へ移行する・・・が、それは適わなかった。
「新撰組一番隊組長,沖田総司!」
周りを新撰組に取り囲まれ、逃げ場を失った長人達はがむしゃらに剣を繰り出す。
「生け捕りって斬り殺すことより存外難しいものなんですね。改めて実感しました。」
「違いねぇ。」
笑いながら余裕のやり取りをする総司と新八。
勝負はついたようなものだった。
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往来の様子を土方とセイは二階の部屋で聴いていた。
耳を済ませて,聞こえてくる音に全神経を集中する。
キン!と刀と刀が触れ合う甲高い音が静かな夜に響きわたり、近くの物にぶつかる音や掛け声・うめき声なども聞こえてくる。
「よっしゃ〜!」という永倉の声が聞こえ、セイはホッと胸をなでおろした。
土方も相変わらず眉にしわを寄せているが、安堵した表情をしていた。
しばらくがやがやとしていたが、それも次第に聞こえなくなり、やがて静かになった。
それを見計らいおかみが部屋に夕食を持ってきてくれた。
緊張が一気にほぐれ急に空腹感に襲われたセイは遠慮なく頂く事にした。
しばしおかみは土方と江戸の話や昨今の京の物価の話などを交わしていたが、やがて引き上げていった。
「感じの良い人ですね。」
「まぁな。ここには色々とお世話になっている。少ない味方は大事にしねぇとな。」
京で新撰組に好意を持つ人は少ないことを踏まえていう土方にセイも頷く。
「今日は、これで終わりですか。何時頃屯所に戻りますか?」とかつらをはずしながら尋ねるセイに土方は頭を振る。
「・・・いや、これからさ。」
セイがその意味を聞き返す間も無く,土方はセイを壊れ物を抱くように優しく包んだ。
「なっ,何するんですか!」
「頭,見せてみろ?痛いか?」
「えっ?」
「俺が気付いてないとでも思っているのか。」
「・・・・・・大丈夫ですよ。たんこぶが出来ただけで。痛みも治まりました。」
かつらがクッションとなったのだろう。少しはれている程度だった。
自身の頭を撫でるセイの手首をしばらく見ていた土方は軽く口付けた。
その所作に驚き,セイは手を頭から離しにらみ付けるが、油断大敵だと男は笑う。
そんな男を横目で捕らえながら、少し青みを帯びた手首をセイはじっと見た。
あの時の状況がまざまざとよみがえる。
男に手を捕まれ,首に舌をはわされ、身動きできなかったあの時の状況が・・・。
女としての恐怖がいまさらながら沸き起こってきた。
「怖かったか?」
先程までとは打って変わり,真摯な眼差しの土方にセイは首を横に振る。
怖かったと認めてしまえば、武士としての自分が女子としての自分に負けたみたいで,そんな自分を知られるのが嫌だった。土方の前では、彼に認められる武士でありたい。
だが、体は正直なもので、小刻みに震えだす。
私は武士だから,怖くなんか無い・・・そう思えば思うほど震える。
震えを止めようと体に力を入れた時、目の前の男に再度抱きしめられた。
「・・・無理するな。・・・・・・悪かったな。お前を女子だと知りつつ,こんな策しか浮かばなかった。」
昨夜と同じ言葉を口にする土方にセイもこう口にする。
「武士の前に,男も女もありません。あるのは、心意気だけです。」
決して怖かったと言わないセイの耳に土方は「頑固者」と囁く。
温かい腕の中で、セイは少し泣いた。
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翌日、帰ってきたセイと土方を皆が出迎えてくれた。
総司は一目散にセイに駈け寄り、「大事無いですか?」と何度も尋ねている。
そんな様子を近藤と山南が温かい目で見ている。
「神谷さん、甘味処へ行きませんか?私のおごりですよ。」
「私の目の前で、葛きりを五杯以上食べないと約束してくださるのなら。」
その言葉に,一同笑いの渦が起こる。
そんな様子を離れから涙を流しながら縋り付くように見ている人物が一人。
「あぁ〜,土方君!清三郎!無事だったんだね〜。あぁ是非祝福の抱擁をしたいものだよ!!」
急ぎ外へ出ようとする伊東を「ていっ!」と縄で捕らえ、しゅるしゅると元の位置に戻させる伊東の教育係内海。さながら、カウボーイである。
「・・・伊東さん、あれだけ教えても身に付いていないようですね・・・。」
冷ややかに自分を見下ろす内海に、何やら伊東は「抱きつきたい、土方君に抱きつきたい,清三郎に抱きつきたい」とうわ言を繰り返している。
そんな様子に内海はただ静かに「これであなたもだだっこを良い子に!」と副題が付いた伊東専用の躾本を広げた。
「伊東さん、ほらおさらいしますよ!私の後に続いて読んでください!」
「一つ、人に抱きつかないようにするべし。」
「一つ、人に抱きつくべし。」
「違〜う!!」
ハリセンで伊東の頭を叩く内海の顔には苦渋の色が滲み出ていた。
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一方、こちら副長室。
こそこそと自室へ戻った土方は全ての障子と襖を閉め、押入れの置くの行李を取り出す。
風呂敷に包まれた物を大事にその奥にしまい込む。
その中身が、セイの残り香が十分にする着物であることは土方しかしらない。
久し振りに一句詠むか・・・。
土方は懐の発句帖へ手を伸ばした。
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