「副長、副長!」
「何だ、如身遷」
トタトタと副長室に入ってきたセイを土方はにやりとして返した。
その呼びかけにセイは両手で障子を開けたままの格好で固まる。
・・・・・・バチン!
破裂音が部屋内に響いた。
「・・・・・・ってぇなぁ」
「五月蝿いです!そんな呼び名で呼ばないで下さい!!副長の馬鹿!!」
すごい勢いでいきまくセイ。
「いや、だってな。『タレ目のおじちゃん』がお前のことをそう言ってたぜ」
再度平手が飛ぶが、するりと土方は交わしてその手を絡みとる。
しばしのにらみ合い。
手を振り払い尚も睨みつける土方は笑いを深くした。
「で、何のようだ」
「・・・・・・ふんだ」
腕を組み口を尖らす仕草が可愛らしい。
「俺に用でもあったんだろ」
笑いを抑えて少し優しく問いかけると、セイはちろりと土方を見た。
「どうだったんですか?」
「はっ?」
「だから、診察はどうだったんですかと聞いているのです!!」
物を尋ねるにはやや乱暴な物言いに土方は額の皺を濃くする。
「診察?終わったぜ。松本法眼も帰られただろうが」
「そうじゃなくて」
「あん?」
「・・・・・・どこも異常はなかったのですか?大丈夫でしたか?」
俯いて言うセイに土方は相手の言いたい事が漸く飲み込めた。
「何だ、らしくもねぇ。俺の心配でもしてんのか」
「一応、貴方の小姓ですから」
「よくいうぜ。総司と仲良くあそこで肩を並べて座っていたくせに」
意地悪に言う土方にセイはグッと言葉が詰まる。
「端からみていると、俺の小姓というより奴の小姓という感じだったぜ」
「・・・・・・いつの間にか、話がずれています!診察はどうだったんですか?」
苦し紛れの発言に土方は苦笑しつつ応えた。
「どこも悪くねぇだと。心労が重なっているだろうとか言われたが、まぁ原因は分かっているんでな」
そういって、ゆっくりと一番隊の部屋の方角を指差し、ついで意味ありげにセイをちらっと見やる。
「なっ何なのですか・・・・・・」
「何だと思う」
土方は手に持ったままだった筆を硯に置き、セイの正面に向かう。
セイは袴をぎゅっと握り、俯いた。
先程総司といたことを責められているのだろうか。
あれは、純粋に嬉しかった。
自分の身を案じてくれたことがただただ純粋に嬉しかった。
ただ、それだけなのに。
そう、ただそれだけなのだがら、何もやましいことはないのだからそのまま口にすればいいだけだ。
なのにこんなにも後ろめたい気持になるのはどうしてなのだろう・・・・・・。
身動きしなくなったセイを土方は覗き込む。
「さっきまでの勢いはどうした」
俯いたままのセイを土方は引き寄せた。
「あっ、あの・・・・・・・私はだから、別にそう、そうなんです。だから・・・・・・」
どもりながら何かを言おうとするセイの口をそれ以上言うなと土方は塞ぐ。
土方の顔に苦笑がみられる。
勘違いをさせてしまったのは分かるのだが、どういえば良いのかセイは分からない。
「ごめんなさい」
「何に対してだ?」
また、言葉に詰まる。
「謝る理由がないのに謝るのは損だぞ」
笑いながら土方はセイを横抱きに抱えなおした。
「あの、私は副長が健康を害されていないかとても心配だったのです」
何を言えばいいのか迷ったセイが口にしたのは、言い訳でもなく謝罪でもなく、部屋へ入ってきた時、最初に言おうと思っていた言葉だった。
「副長、睡眠時間少ないし、忙しいからって御飯あまり食べない時も多いし、最近よく肩をまわしたり、目をこすっていたり、欠伸が多かったりとお疲れのご様子だったし。こんな状態が京に上られてからずっとだったのだと思うと、どこか身体を壊されているのではないか。でも、それを表に出す方ではないから、私が見抜けていないだけでずっと隠しているのかもしれないって東山で夕日が傾くのをみながら、ずっとそう思っていて・・・・・・・」
「で、目の前にいる男は病気だとお前は思うのか」
「松本先生がそうご診断されたのなら、心配はありません」
「病気ならお前の方だろう。何でも世にも珍しい病なんだってな。『如身還』というのは」
「せっかく人が素直になったのに、どうしてそう混ぜ返すのです!」
「お前こそ、病は他になかったのか」
「はい?」
「過労とか・・・・・。今のお前の居場所は時として体がつらいだろ。最近明里のところへ行くのも不規則だしな」
「いや、私は別に。何とも・・・・・・。それより、明里さんの所へ行くのが不規則だということは何かの病なのですか」
セイは心配そうに土方の顔を見た。
お馬のことを直接話すのは恥ずかしいから、セイはいつも「お馬」を「明里さんのところへ行く」と表現していた。
そして、土方もそれに合わせていた。
「不規則より規則的な方がいいに決まっているだろうが」
「・・・・・・う〜ん、そう言われてみればそうかもしれません。でも、正直なところ何で私にだけ明里さんのところへ行かなくてはならないのでしょうか。
いや、理由は何となく分かっているんですけれども。どうもよくは分からないんです」
「お前が知らないことを男の俺が知っていると思うのか」
カーっとセイの顔が真っ赤になる。
そんな様子を見ながら土方は思った。
まだまだこいつをこの手に抱くには幼すぎると。
母親に早くに旅立たれ、女親から教わる知識がセイには欠如しているのだろう。
父親は蘭医だったというが、セイの話し方から何かわだかまりがあるのが感じられ、セイはセイなりに複雑な家庭の事情があったのだろうと考えた。
無意識のうちにセイの袷に手をすべらせようとしていた自分に苦笑し、土方はその手を引っ込めた。
焦らなくていい。急がなくていい。
もうしばらくはこのままの関係でも良かろう。
土方はセイの額に軽く口付け、コツンと額を合わせた。
「俺の心労の原因はな・・・・・・」
手を差し出し、先程と同じ一番隊の部屋を指差す。
腕の中のセイの体が固くなる。
「・・・・・・某参謀の執拗な変態行為だ」
にやり
驚くセイに土方は唇を落とした。
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