「歳、お前、何であんなことを言った」
近藤は隣を歩く土方の襟元を鷲づかみにし、揺さぶる。
一方、土方はされるがままだ。
「お前は、どうも昔からその口が災いする。俺はお前のそんなところが可愛いとも思うが、相手が藩だと話が違ってくる。政治や人間関係や心の機微というものはお前の得意範疇じゃないか」
黒谷へ二人が呼ばれ、対面したのは会津公を通して紹介された薩摩藩の者。
いくら新選組局長・副長といえども、農民出身の二人にとって身分からいって普通にお目通りをも許さぬ身分である。
それを今日は会津公の計らいで会合の席で呼ばれた。
薩摩は会津とそして、長州との関係に微妙な位置に座している。
裏では坂本竜馬の働きがちらほらと見え隠れする。
こんな大事な時期だからこそ、薩摩とのいざこざは起こしたくはない。
憤怒する近藤の手を己の襟元からそっと外すと、土方はついた皺を伸ばした。
「あんたがあいつにへこへこ頭を下げていたからだ」
ぶっきらぼうにいう。
「当たり前だろう。それが礼儀というものだ。そして、外交というものだ」
「あんたは、昔からそうだ。相手を見て、それに値すると判断したら必ず己の方から頭を下げる。誠衛館のときもそうして他流から教えを乞うていた」
「その度に、歳は悪さをしてたな。お前は一言多いんだ。俺とてあんなに見下された態度をとられれば、恨み言の一つも言いたくなる。だが、それをぐっとこらえるのが武士だろう」
ふぃと大きな溜息をつく近藤にちらりと土方は見やる。
「だからさ」
「何がだ」
「あんたが、俺の分まで頭を下げた。だから、俺はあんたの分まで言いたいことを言ったんだ」
近藤は苦笑するとコツンと土方を叩いた。
「・・・・・んだよ。一つ上だからって、兄貴ぶるなよな」
ふてくされていう土方に
「なら、お前が俺の兄貴になるか?」
と返すと、
「世話が焼けるからやなこった」
とにやりとした顔を返された。
二人の後ろには長い影ができていた。
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