いつもの居続けから帰って来ると屯所はてんやわんやの大騒ぎだった。
とにかく帰営報告を・・・・・・と副長室の部屋を開けたセイは目が点になる。
部屋一杯にあらゆる物が積み上げられておりそれらに囲まれて土方が、苦虫を噛み潰したような顔をしているではないか。
いつもなら「鬼副長」という威厳のもと普段の背丈よりも大きくみえる土方が、今は小さく小さく見える。
「土方副長、神谷清三郎只今、帰営しました。・・・・・・あの・・・・・何があったのですか?」
そう挨拶して、立ち上がろうとした瞬間、
「あ!」
と土方の口が動く。
「・・・・・・?」
どうしたのかと身を乗り出した瞬間、上からバサリと物が落ちてきてセイは埋もれた。
「ぷは〜!」
ようやく這い出てくると目の前には男女がこれ以上ないぐらいに仲睦まじくしている絵冊子があちらこちらから視界に入る。
右向こうのものはこたつの中で、左向こうのものは、関節が痛むのではないかという姿勢の構図。
「・・・・・・副長。こんなに沢山よくも春画本を集められましたね」
頬を染めつつも、反射的に土方からやや距離を置きながら尋ねる。
小姓をしてしばらく経つが、上司がこんなに春画本を集めているとは知らなかった。
「俺じゃねぇ!」
「こちらなんか絵の隣に『済』という文字まで書かれて・・・・・・。どこぞの素敵な女性と楽しまれたのですか?それにしても
なかなか過激な・・・・・・」
「だから、俺じゃねぇ!」
「こちらは、御丁寧に本を布で覆われて・・・・・・。数ある中でもこの本が一番大切なのですか?」
「だから俺じゃねぇと言っておろうが!!」
土方が声を張り上げ、拳を挙げた瞬間・・・・・・。
土方も上から物が降って来て埋もれた。
もっとも、こちらは菓子箱で、かびが生え「元」御菓子であることがかろうじて分かるものも少なくない。
セイは土方の頭についたきなこ餅らしきものを払いのけて土方を菓子箱の中から助け出す。
「大丈夫ですか?それにしてもこれは何なのです?」
「屯所内の畳の下に隠されていた物だ」
セイは開いた口がふさがらなかった。
事の起こりは、セイが居続けに出かけた三日前。
仕事も一段落した土方は、普段は自分から出向かない隊士部屋へふらりと足を向けた。
格別、何か用事があったわけではない。
ただ、ここのところ専ら内向きの仕事ばかりで、隊士達とも満足に顔をあわせておらず、名と顔を一致しどういう性格であるか
隊士を見るためにも丁度いいと思っただけだった。
廊下を歩くと擦れ違う隊士達は一礼をし、そして逃げるように去ってゆく。
別段今更そのことにどうこうとは思わないが、それでも時折山南や総司に隊士達が集まり談笑していると心が落ち着かない。
自分はまだまだ鬼になりきれていないと苦笑しながらも足を進める。
バタン。
バタン。バタン。
バタン。バタン。バタン。
急に周りで何かが倒れるような落とすようなそんな音が続けざまにしだした。
何事か!
隊士に当てられている部屋のあちこちで音がするのだ。
廊下を走って、部屋を覗いてみると・・・・・・。
そこには畳みの下に慌ててあらゆるものを隠している隊士達の姿が土方の眼に映ったのだった。
「なるほど」
セイは深く頷いた。
「それで、回収物がこれなのですね」
セイは落ち着いた様子で、散らばった春画本と菓子箱を片付けてゆく。
あぁ、この春画本は原田先生が持っていたなぁと思いながら。
「・・・・・・お前、よく落ち着いていられるな」
「だって、元隊士部屋住みですから」
「・・・・・・ということは、何か。お前は隊士達がああして畳の下にあれこれ隠しているのを知っていたということか」
「えぇ、まぁ」
「しかも、驚くべきごとにあいつら、皆『畳がえし』がつかえるんだぞ」
「あぁ、これですか?」
バン!
セイが目の前の畳を返してみせる。
物がのっているので、少ししか上がらなかったが、それでも畳みは上がった。
それは間違いなく「畳返し」だった。
目を丸くしている土方に、
「副長は御存知なかったのですね。ほら、以前時折副長が隊士部屋に来られたでしょ。その時、『お前ら荷が多すぎる。俺等に主人を想う心以外に何がいる』と怒られたじゃないですか。で、このままでは、士道不覚悟で切腹させられる。でもどうしてもこの荷だけは捨てられないというものが皆さん多くて。そこで目につかない場所。つまり畳みの下に皆さんこっそり置いていたのですよ」
「・・・・・・!」
「ちなみに『畳み返し』はですね。新入り隊士の必修科目です。同じ隊の先輩隊士が教えてゆくのです。今では出来ない人はいませんよ」
「・・・・・・いや、俺は出来ねぇんだが」
「では、きっと出来ないのは副長だけでしょう。噂ですが、局長も出来ると耳にしましたよ。私もねそんなに一朝一夕で出来ないと思ったのですが、人間必死になると何でも出来るようになるのですね。何とかの馬鹿力とでもいうのでしょうか。とにかく、皆さん切腹から逃れるために必死で・・・・・・」
「いくらなんでもそれで切腹を命じるほどこちとら暇じゃねぇし、無駄に戦力を落としたくはねぇんだが・・・・・・」
「えぇ、よく考えればそうなんですけれども、『士道不覚悟』の士道は如何様にも解釈できますから・・・・・・。それに幹部の先生方も
同様に畳みの下に隠されていたので・・・・・・って副長聞いていますか」
土方の目の前に手のひらをかざすが、反応がない。
まぁ、無理もないだろうけれどもと苦笑しながらセイは室内を改めて見渡す。
それにしてもよくも畳みの下にこれだけでのものが隠されていたものである。
放心している土方に
「かさばる物は梁の上や縁側の下に壷に入れて隠しているということは、言わない方がいいかしら」
と無造作に積み上げられた物の片づけを始めた。
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