「あれっ、土方さん何処へ行くのですか」
下駄を履いている土方に背中から声が掛かった。
「・・・・・・どこだっていいだろ」
怒ったような返事に総司は土方の前に立ちはだかった。
「ははぁん。その様子じゃ、行き先はあっちですかね」
島原方面を指差す。
「やかましい」
「真昼間から行ってもお店開いていませんよ?」
「俺は一言も妓を抱くとは言ってねぇ」
「顔に書いてあります」
土方の眉がぴくんと跳ね上がる。
嘘がつけない人だと総司は心の中でくすっと笑う。
「まぁ、気をつけていってらっしゃい。そうそう、一つお聞きしたいことがあるのですが・・・・・」
総司は歩を進めようとする土方をさえぎる形に動いた。
傍にいた平隊士ににこりと微笑む。
言外に席を外せと受け取った隊士は一礼をして、急ぎ足で去っていった。
「・・・・・・うちの神谷さん、知りませんか?」
土方の眉がまたぴくっと動いた。
「俺が知るわけないだろ」
「今日は、随分と前から甘味処へいく約束をしていたんです。新商品がこの間でたから、それを食べようって。なのに、神谷さんがいないんですよ。机に用事があって、行けなくなりましたって置手紙を残して」
「そうか」
「今まで、約束をして果たされなかったのは、神谷さんが明里さんの元へ行く時だけでした。男との約束より女の人との約束を優先するのは分かりますし、明里さんとののろけ話を何度も聞かされているこちらとしては、まぁ存分に楽しんで来て下さいっといった感じなのですが・・・・・・」
「神谷がそんなに女に思い入れをしているとは知らなかったな」
「けれど、そうこの一ヶ月前からです。私との約束が一度も果たされません。いつも、すまなそうに断られるんです。最近ではその約束さえもしてくれなくて漸く今日行こうと約束したのに」
「菓子を食べに行くぐらい一人で行け。神谷も呆れたんだろう」
「そうでしょうか。じゃぁ、神谷さんが昼間いなくなるときは、土方さんも外出している
のは何故でしょう」
土方の表情が固まった。
総司はくるりと背中をみせることによって、今の自分の表情を隠した。
口調だけは今までとおり、陽気だ。
「もしかしたら、神谷さん土方さんと何か甘いものでも食べて『甘い一時』を過ごしているんじゃないかな・・・・・・・なんて思いましてね」
「何で、俺が奴と菓子を食べなくちゃならねぇんだ。お前みたいに」
馬鹿馬鹿しい。
土方が総司を軽く小突いて退けさせ、外に出ようとする。
「それもそうですね。でも、もし神谷さんに会ったらこう伝えて置いて下さい。
『どこで、何をしているのですか。私との約束が果たせなくなるほどの用事とは一体何なのですか』と。外から帰って来る神谷さんはいつも何だか疲れているように見受けられるんです。何かお困りなことがあったらいつでも相談にのりますよと。」
その言葉は実質土方に向けられたものだった。
自分は土方と神谷との関係を知っている。
それでいてあえて、口出しをしていないのだと。
しかし、今の状態を甘んじる気は無いのだと。
「そう神谷に伝えればいいんだな。・・・・・・・もし会えたらの話しだが」
「えぇ。御願いします」
総司は土方にお得意の笑顔を見せた。
「仕方が無いので、今日は斎藤さんあたりを誘ってみます。それでは。」
総司は口笛を吹きながら部屋に戻っていった。
土方の背中に流れた汗は、空高くに位置している太陽によるものだけではなかった。
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