残り香(一)






 「神谷さん、大丈夫でしょうか?」

 宿屋で待機している総司は、誰に言うのでもなくそうつぶやいた。

こちらには、新八とそれぞれの隊から手練れの者数名が待機している。

 「あいつなら、上手くやるさ。池田屋の時みたいにな。」

 無精髭をなでながら、新八は弟分を落ち着かせるように言った。

 「そう・・・ですよね・・・。」

 「むしろ、心配なのは、お前の方だぜ,総司。あの時、昼間笠もかぶらず、凧揚げをしていて遊んでいたのが倒れた原因だっていうじゃねぇか。今日は、大丈夫だろうな。」

 盃をくいっと傾け,からかいの眼差しで問い掛ける。

 「いや・・・本当に,あの時は、面目ない。今日は、大丈夫ですよ。」

 「ならよ、神谷に何かあったらどうしようと考えるんじゃなくて、同じ考えるのなら、この仕事が早く片付いてどこの甘味処へ連れて行こうかとそう考えてみろよ。なっ?」

 普段、おちゃらけていても、仕事となるとけじめをつけ、頼もしい兄貴分の言葉に、総司は「はい。」と力強く頷いた。




━「残り香」(前編)より━