夕焼けに変わり、夜の帳が徐々に下ろされてくる。 普段人気のない寂れた境内には、女の声と三人の男の声が響いていた。 「うちは、ほんまに何も知りまへん。」 せまりよる男達に女は後退るが、トンっと背中に木が当たり、逃げ道を閉ざされる。 余裕の笑みを浮かべる男達に対し、セイは頭の中で必死に策を練っていた。 ・・・どうする。いっそ、こちらから攻撃をしかけてみるか・・・。 否、相手の力量が分からない上にこちらの武器は懐剣一つ。加えて、女物の着物で動きづらいときている。 では、このまま何も知らぬふりを続けて相手が諦めるのを待つか・・・。 無理・・・だな。どちらにしろ、ここで私がこいつらに屈したら、山崎さんが命を賭けて集めた情報が全部おじゃんになる。 それだけは、絶対嫌。出来れば最後までただの町娘で事を済ましたかったけれども、もう限界かな。 「新撰組」を匂わさずに動けば、副長の策には背かないだろう。 ・・・どこまでやれるか分からないけれども、ここはやるしかない!! セイはじっと相手を睨み付け、懐刀の短い間合いを稼ぐべく男達がぎりぎりまで自分に近付くのを待った。 ━「残り香」(後編)より━
|