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ややこしや、ややこしや。
「わたし」が「そなた」で
「そなた」が「わたし」
そも「わたし」とはなんじゃいな?
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疾走した伊東が失踪した。
監察方が震えながらもたらされた驚愕の真実に土方もセイも呆けたようにその場に座り込んだ。
その後もどこどこを探したとか今後もどの近辺を中心に捜索するなど監察方が話すも耳から耳へと素通りする。
魂が抜けた二人に憐れみの感情を抱きながら、山崎はそれではと副長室を去っていった。
カァ・・・・・・。カァ・・・・・・。
秋の日は落ちるのが早い。
夕焼けに染まり始めた空は次第に暗くなり始めていった。
そろそろ行灯に火を灯さなければならない時だが、二人は座り込んだまま動かない。
否、あまりの展開に動けなかった。
「俺は近藤さんを敬愛してやまないが、奴を入隊させたことだけは一生許せねぇ気がする・・・・・・」
「・・・・・・副長」
「それでも俺は馬鹿だから、近藤さんの顔を見れば許しちまうんだろうなぁ・・・・・・」
のそり。
力なく立ち上がる土方。
よろり。
足をふらつかせる土方。
セイが慌てて支える。
「俺は何の為に京に上ったのだろう」
「・・・・・・副長」
セイは土方を支えながら、心中察しに余りありますると頭を下げる。
「こんなことの為にわざわざ上ったのではない」
「・・・・・・副長」
セイは土方を支えながら、えぇそうですともと自分も泣きそうになる。
「多摩で近藤さんと共に公方様のお役にたつんだと夕日を指差し叫んだあの頃に戻りたい」
「・・・・・・副長」
セイは土方を支えながら、副長にも青春時代があったのですねと心の中だけでつぶやいた。
「・・・・・・今日はひどく疲れた」
よろけながら柱に手をつき、土方は言う。
「えぇ、私も疲れました。いつかは体内から互いが入れ替わるという妙薬が代謝、消化され元に戻ると強く強く強く信じておりますけれども、
いくら前向き思考な私でも此度のことはひどく疲れました。ただ、その一言です」
ふうと深い深い溜息をセイはついた。
「もう夕飯も食う気が起こらん。とっとと、風呂に入って寝る」
「えぇ、『果報は寝て待て』と申します。寝ている間にとっとと『果報』が来てほしいものでございます」
セイは土方の入浴用にと新しい手ぬぐいと着替えの下帯を手渡す。
「・・・・・・お前にも苦労かけるな」
「いえいえ、副長には何も非はございませぬ」
「では、俺は風呂に入ってくる」
「ごゆるりとお疲れを落とされるがよろしいでしょう」
そういって、土方は湯殿へセイは行灯に灯すべく火打石をならした。
※
ふう・・・・・・ふう・・・・・・。
漸くついた火に息を吹きかけて大きくしてから、行灯を下ろす。
もう嫌・・・・・・。
セイはごろりと横になった。
「いいなぁ、副長は。お風呂で疲れを癒すことが出来て。私は、また一目をはばかって行水だもの。秋になってから一段と水が冷たくなってこたえるのよね・・・・・・。明里さんのところにはこの間行ってきたばかりだし・・・・・・」
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
「って、今は入れ替わっているんだから、今の副長が脱いだら・・・・・・」
ガバッ!
起立性低血圧を起こしそうな勢いでセイは飛び上がる。
「副長!・・・・・・じゃなかった。神谷!!!!!待って!!!!!!お風呂に行くの待って!!!!!!嫌ぁ!!!!!」
セイは羞恥心によるものと誰かに露見したら副長に自分の体が見られたらどうしようという気持ちから顔を赤、青交互に色を変えさせながら
一目散に湯殿へ向かった。
※
一方、こちら土方。
「おっ、今日は一番風呂か。流石にこの時間帯だもんなぁ」
コキコキと肩を慣らし、脱衣所に着替えと手ぬぐいを置く。
神谷の言った通り、風呂にでもつかって嫌な疲れを落としたいものだ。
そういって、土方は袴の帯をほどくべく腰に手を回す。
ん?
いつもより細く感じる腰に
「ここのところ苦労づくしだもんなぁ。痩せもするよなぁ」
と深く気にせず袴をぱさりと落とす。
今の土方の頭の中には、「風呂に入って、少しでも心を癒したい」ということしかない。
しゅるりと帯をゆるめる。
いつものようにバサッと上着を脱いだ瞬間、土方は気がついた。
今の自分はいつもの自分とは違うことに。
ガバッ
思わず上着を着て、周りをキョロキョロみる。
幸い、誰もいないようだ。
ふうと安堵の表情をみせる土方。
「・・・・・・まずいよなぁ。俺の気持ち的にはかまわないけど、誰かに神谷のこの体を見られたらまずいよなぁ・・・・・・」
急いで袴も身につける。
「どうする。俺はこのままあいつの姿で入るのも一興だと思うが、むしろ楽しみだったりするが、誰かに入られたらまずいよなぁ」
理性と欲望の狭間でふらふらと漂う。
「ばれなきゃいいんだよな。でも、ばれたときが取り返しつかねぇしなぁ」
「でもなぁ、昨夜こっそり胸とか触ってみたが、暗くて感触しか分からなかったしなぁ」
そういいながら、襟元を覗き込む。
良心の呵責からかちらりと見る。
「風呂も入りたいしなぁ」
欲望の方が勝ってきたのか、ちらりと胸元をみる回数が増える。
両手でふくらみを触る回数も増える。
土方は目をつぶる。
仏土方(別称:理性土方)が「そのような邪推な心で女子の肌を見るなど笑止千万!」言うと、
鬼土方(別称:欲望土方)が「だがこのような機会は二度とあるまい。機会は活かすためにあるもの」と反論する。
仏土方〔別称:理性土方)が「何を言うか、そこまでお前は卑しい男ではなかろう」と詰ると、
鬼土方(別称:欲望土方)が「お前こそ何を言う、元来男とはそういうものだ。悲しき性なのだ」と譲らない。
白い服を着た仏土方と黒い服を着た鬼土方の言い合いが悶々と土方の脳内で口論を続ける。
そして、鬼土方が優勢になり勝ちどきを上げた時だった。
「副長!!!!」
真っ青な顔でセイが駆け込んできたのは。
「あぁ、間に合ったのですね。はぁはぁ、すっかり私たちが入れ替わっていたことを忘れていました。ぜぇぜぇ」
「おっ、おう。神谷。俺も『着替える前に』気付いてな、これから部屋に戻ろうと思っていたところだ。お前も間抜けだな、俺に風呂をすすめるとは。つい俺も深く考えずに来てしまったではないか」
「着替える前に」というところを強調して土方ははははははと笑う。
「申し訳ございません。参謀の件で頭が回らなかったようです。でも、良かった、副長が分別のある方で。てっきり、誰かにばれなきゃいいっかとお思いになられているかと思っていたのですが、杞憂に終わりました」
にこりと笑うセイに実は見通されていた土方は「・・・・・・すまん」と心の中で謝る。
「私はいつも行水なのです。けれどそれでは冷たいでしょうから、後でお勝手でお湯をわかしてお拭きしますね。あぁ、心配はご無用です。例のごとく
副長には目隠しをして、私が全て拭きますから」
さぁ、帰りましょうと風呂場の戸を開けるセイ。
「・・・・・・あともう少しのところだったのに。ぐだぐだ考えずにとっとと入りゃよかった」
とつぶやく土方。
「ん?何かおっしゃいました」と振り替えったセイに
ブンブンと土方は強く首を横に振った。
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