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ややこしや、ややこしや。
「わたし」が「そなた」で
「そなた」が「わたし」
そも「わたし」とはなんじゃいな?
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伊東が持ってきたきなこ餅に良く似た怪しげな餅によって中身が入れ替わってしまった二人。
少しでも現状把握しようと自身の体をあちこち触る。
「髷がある!手がこんなに大きい!あっ、やっぱり眉間にしわがある!」
と、ちょんちょんと自身の眉を指でつっつくセイ。
「はげがある!視野が低い!・・・・・・あっ、やっぱり胸はあるのか・・・・・・」
と、ぺたぺたと自身の胸を手のひらで触れる土方。
「ちょっちょっと、どこ触っているんですか!!ほら、また!やめてください。それにはげとは何です。月代とおっしゃってください。・・・・・って、ほらまたもう嫌!!
触らないで下さい!!!」
真っ赤な顔で泣きそうになっている自分の顔を目の前にして、土方はしぶしぶながらその行為をやめた。
「とにかく、何としてでも伊東先生に元に戻してもらわなくっちゃ」
ムン!と拳をつくるセイの横で、
「いや、俺はしばらくこのままでもかまわねぇな。お前、さらし、少しきつくねぇか。息しづれぇ」
とさらしをほどきはじめた土方にセイは腰のものをすらりと抜き自身に向ける。
「副長、それ以上その手が悪さをするようでしたら、恥ずかしさの余り、私自刃致します」
ぐいっと刃を自分に近づける。
「って、おい!自刃っていったって、それは俺の体だろうが!!死んじまうのは、俺だ!」
「そんなこと知りません。早くさらしを巻きなおしてください。・・・・・・でないと・・・・・・」
「わっ、馬鹿。やめろ!分かった。分かったから。なっ、落ち着け。俺が悪かった。とにかく、刀をしまえ。な?」
「さらしを直すのが先です」
ものすごい剣幕の眼差しに土方は内心びくびくしながらさらしを巻きなおす。
自分の顔が怒るとこんなにも怖いものなのだと初めて知った。
「どうかしましたか?土方さん。神谷さん。大きな声がしたから何事かと思い・・・・・・」
先程の大声で心配になり副長室の様子を見に来た総司は室内の様子を見て、体が固まった。
かたや小刀を手にしている土方。
かたやおびえた様子でほどけたさらしを巻きなおしているセイ。
総毛立つ感じは止められなかった。
「何しているんです!最近島原へ行く時間がないからって、貴方の小姓に手を出そうとするなんて、正直私、見損ないましたよ。土方さん」
ものすごい威圧感のある瞳で睨まれ、土方の形をしているセイが「違うの」と声を出す前に総司はセイの形をしている土方をかばうように座った。
「大丈夫ですか、神谷さん。何もされませんでしたか?もう怖くないですからね」
そういいながら、優しくセイの襟をきちんと合わせる。
今まで見たこともない総司の『セイ』へ向ける優しい笑みを土方は心中複雑に思う。
それは弟分に向ける表情ではない。男が女に向けるそれだ。
セイを小姓にしたのは正直、セイが欲しかったからだ。
セイは小姓にされたのは正体が露見したからだと思っているようだが、真実は違う。
セイの隠し事はもう随分前に知っていた。
どうしてそこまでして隠しているのかその心意気が汲み取れたから、何も言わずに知らぬふりをしてやろうと思った。
だが、知らぬふりを続けると「知っている」ことが日に日に増えてきた。
総司にその気がないことも。
それを知った上でも尚、一人想いを募らせているセイにも。
もう、これ以上、こんな二人は見ていたくなかった。
セイがただ欲しいと思った。
だから、小姓にした。
セイはこんな自分の想いなどまだ何も気付いていない。
不思議とセイには手を出しづらく、未だ口を吸ってもいないのだから、気付きようがないのだけれども・・・・・・。
土方はちらりと伊東が持ってきた皿を見遣る。
皿の上には餅が一つ。
土方とセイの二人に持ってきた餅二つのうち一つを食べてしまったので、その残りである。
もし、この餅が原因ならば、再度あの餅を食べればこの不可思議な現象は元に戻る。
解決策が分かっているのならば、ここは機会である。
セイのふりして総司がどう想っているのか、知るいい機会だ。
「そ・・・・・・、沖田先生。副長がいきなり刀で脅してきて・・・・・・怖かったの・・・・・・」
肩を震わせ総司に寄り添う。
「えっ、違う。ちょっと、本当は・・・・・・」
セイが声を張り上げ抗議するのを抑えて
「さっきの状況で何を弁解しようというのです。・・・・・・衆道が嫌いといいながら神谷さんには手を出すだなんて。御覧なさい、こんなに震えて。
神谷さん、今日は私と斉藤さんの部屋で休みましょう。ここにいては、またなにをされるか分かりません。・・・・・・というわけで、神谷さんは今晩は私たちの部屋で
休みますから。否とは言わせませんよ。貴方は自身がなさろうとしていたことを一晩反省して下さい。・・・・・・さっ、行きましょう。立てますか?」
総司の衆道発言から、自分がセイの正体を知っていることは知らないのだと冷静に分析した土方は、少しよろける芝居をしながら、
総司の差し出す手に支えられて立ち上がる。
「・・・・・・そういうわけだから。神・・・・・副長。今夜はそ・・・・・・沖田先生のところに泊まる・・・・ります」
セイの正しくは自分の呆気にとられた間抜けな顔を見ながら、土方は今尚心配そうに見てくる総司を感じていた。
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