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ややこしや、ややこしや。
「わたし」が「そなた」で
「そなた」が「わたし」
そも「わたし」とはなんじゃいな?
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秋晴れの気持の良い風が吹く昼下がり。
総司とセイ・・・・・・中身は土方・・・・・・が、二人仲良く団子屋で団子を口にしていた。
最も堪能しているのは「いやぁ、この秋の新作はまた格別の美味しさですね〜」と満足げな顔をしている総司だけで、
土方はもともと甘いものは食べる方ではないので、ゆっくりと一本を食べ終わり、お茶を飲んでいる。
総司との勝負は結局負けに終わった。
しかし、防具をつけているとはいえ、本気で「セイ」に向かってくるとは。
そこが総司らしいといえばそうなのだが、教え方の下手さも変わっていなかった。
総司は剣に関してだけは相手をその気にさせることができない。
これが永倉あたりならば褒めるところならば褒め、成長した点を認める。
褒められると人はその次を目指すようになる。
だが、総司にはそれがない。
自分が才を持っていることに自覚が薄いから、何故相手が自分と同じように動けないのかが理解できていない。
だから、だめな所ばかり目につき、そればかり口にする。
人をおだてのせるということが剣に関してだけは出来ない男なのだ。
努力すれば誰でも出来るようになると思っているところが総司にはある。
実際総司も生半可な練習量をこなしているわけではないのだから、気持ちはわかるがそれでは人はついてこない。
こういうことに関しては、流石師の近藤は卓越している。
だからこそ、局長としての器がある。
「あれ?神谷さんはもう食べないんですか?」
「・・・・・・腹がいっぱいなので」
土方はうんざりと総司をみやる。
「う〜ん・・・・・・それは残念ですね・・・・・・。せっかく、久々に神谷さんと一緒に来れたのに。土方さんのお小姓さんになってから、一度も行けていませんでしたもんね」
そういいながらも団子をまた一つ頬張る。
・・・・・・まだ食べるのかと土方がいい加減帰ろうと腰をあげようとした時、いきなり総司が大声をあげた。
「あっ!!」
その声に店内の客が注目する。
「神谷さん!私があなたをここにお誘いしたのは、お団子を食べる為じゃなかったんですよ!」
土方の両肩をぐわしとつかみぐらぐらと揺らす総司に、
(団子十三本も食べてから言われたって、説得力ねぇよ)
と土方は思う。
「土方さんですよ。土方さん」
土方は一瞬ばれたかとどきっとする。
「その・・・・・・あのですね・・・・・・。昨夜、その、だから・・・・・・何といいますか・・・・・誤解しちゃったじゃないですか、土方さんのこと。それで、あの・・・・・・
怒っていました?」
両手の人差し指をツンツン合わせながら、上目遣いで尋ねてくる総司。
土方の中に悪戯心が沸き起こる。
「・・・・・・まだ副長には、謝りにいっとらんのかですか?」
「いえ、謝ろうと思って稽古の前に部屋に行ったんですがね、声をかけても返事してくれないんですよ。気配はあったから中にいたのは確実なんです」
(神谷のやつ、居留守を使ったな。・・・・・・だが、これは使える)
「副長が沖田先生に気付いていても返事を返さないなんて、よほど怒っているんじゃねぇ・・・・じゃないですか?」
総司の顔が一気に青ざめる。
何だかこういう企みは面白い。
土方は更に付け加える。
「副長は怒っていても口をきいてもらえるうちはまだ望みがあるが、本当に怒ってる時は顔さえ合わさねぇですもんね」
総司は更に青ざめる。
「どうしましょう。おかしいなと思ってそっと部屋の中を覗いたら、犬とじゃれあっていたんです。『はい、朝御飯』といってどこかの犬に餌をあげていたんです。私より犬の朝飯の方が大事だということでしょうか。・・・・・・私ってば、犬以下なんでしょうか」
(犬?・・・・・・そういやあいつが言っていた「歳丸」とかいう犬か?)
「そうかもしれねぇなぁ」
にやりと笑う土方に総司はパッと顔を上げる。
「・・・・・・さっきから、ずーっと気になっていたんですけど、神谷さん何だか言葉遣いおかしくありませんか?」
じーっと見てくる総司に冷や汗が流れる。
ここでばれては面白みがなくなるし、いささか罰が悪い。
「そっ、そうでしょうか?」
最高の笑みを返したつもりだったが、眉間の皺まではとれていなかったらしく、総司はまだ見つめている。
「・・・・・・沖田先生。そう見つめられると照れてしまいます」
しなりと女子の神谷を想像して言うと、漸く総司も顔を少し赤らめながら離れた。
「とっ、とにかく。神谷さんは土方さんのお小姓さんだからって真似しなくていいですからね。いつどおりの神谷さんでいてください。ほら、足も揃えて座りなさい。
袴をはいているとはいえ女子がみっともないですよ。」
言われて見てみれば、無意識のうちにがにまたに座っていた
とりあえず、膝を合わせ足を揃えて座る。
ものすごく足が疲れそうな座り方だと思った。
(意外に行儀にうるさいやつだな。まぁ生まれが生まれだしな。上も姉さん二人だし。それより、神谷とこいつとの関係はどこまでなのかちょいとさぐりを入れてみるというのもいいよな)
「沖田先生は、やはり女子らしい私がお好きですか?」
相手の目を離さず捉えた上目づかい。
目をうるうるさせるのも忘れない。
総司の手を上からそっと包み込み、最後はそっと悲しげに目をそらす。
妓がよく使う手を土方は思い出す。
「・・・・・・・あっ、あの・・・・・・かっ神谷さん」
声が裏返っているのが面白い。
「こんな男の形をしている私では、やはり魅力に欠けるのでしょうか」
しゅんと鼻をならす。
セイの真似は上手にできないくせに、妓の真似ならばすんなりできる土方。
一方総司はあわわわわと目を白黒させている。
この歳になってもまだ女の肌を知らないのだから仕方がない。
最も若い時から色々遊んできた土方としては男として何とかしてやりたいとは思っているのだが。
「お・き・た・先生」
そっと目を閉じる。
「嫌いでないのなら、吸うて下さい」・・・・・・と続けていようとしてハッと土方は目を開ける。
ついつい悪ノリしすぎるところだった。
大体、形はセイでも総司の口を吸うても気持ち悪い以外のなにものでもない。
「あのっ、だから、私はあのですね。神谷さんは好きですよ」
(何だよ、こいつら結局は想いあっているんじゃねぇか)
心の奥がちくりと痛む。
「下がいない私にとってみれば弟のようで。何事にも頑張り屋さんだし。明るいし。お菓子屋さんには一緒に行ってくれるし」
(・・・・・・ん?)
「えっと、だからそういう神谷さんが好きなので、その・・・・・・『おセイさん』のような神谷さんはあまり・・・・・・。いつもどおりの元気いっぱいのあなたがいいわけで」
(要するに男女の仲にはなりたくねぇということか?それにしてもあいつ本名『セイ』というのか。いくら教えろと言っても捨てた名だと頑として俺には教えてくれなかったくせにこいつには教えたのかよ。それはとても・・・・・・)
「気にくわねぇな」
「はい?」
「いや、こっちのことだ」
総司にはその気はない。
やはりネンネなのだ。
男女としてではなく、師弟のような兄弟のようなそんな関係をセイに望んでいる。
だが、それはセイが望んでいるものとは異なる関係だ。
総司の性格からして、心変わりすることはないだろう。
ならば・・・・・・
「悪いが、もらうぜ」
立ち上がった土方は両腕を組み、挑戦的な眼差しで座っている総司を見下ろす。
「・・・・・・何をですか?」
「・・・・・・沖田先生の皿にのってる団子」
にやり。
得意の笑みを向けると土方は団子を横から食いちぎるようにして食べた。
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